2012 Fiscal Year Annual Research Report
核・生物・化学セキュリティと国際法:汎用物質の平和利用確保のための規律メカニズム
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22730040
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
阿部 達也 青山学院大学, 国際政治経済学部, 准教授 (80511972)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際法 / 軍備管理 / 汎用物質 / 化学セキュリティ / 化学兵器禁止機関 |
Research Abstract |
本研究の目的は核・生物・化学セキュリティの問題が国際法によってどのように取り扱われているかを規範的・制度的観点から考察し、汎用物質の平和利用を確保するための規律メカニズムが有している特徴と課題を明らかにすることにある。 研究の展開期にあたる平成24年度は研究代表者が化学兵器禁止条約の実施機関である政府間機関(化学兵器禁止機関:OPCW)の実務に関わるようになったことを踏まえ、研究対象を主として化学セキュリティ問題の1つに絞ることことした。 具体的には、関連する参考文献・資料の収集および各種会合における実務担当者からの聞き取り調査を通じて、国内規制の現状と国際標準化に向けた動向について新たな知見を得た。また、平成25年4月に予定される化学兵器禁止条約第3回運用検討会議のための準備作業の過程で、化学セキュリティ問題に対する化学兵器禁止機関の取り組みに関する最新の情報を収集した。 これらを踏まえ化学セキュリティ問題に関する法的枠組みの進展状況について分析を行った結果、(1)化学兵器禁止条約を通じた汎用化学物質の平和利用確保のための制度の運用状況、(2)化学兵器禁止機関による化学セキュリティへの取組み、および(3)平成25年4月の第3回運用検討会議における化学セキュリティ問題についての評価と勧告の3点について更に考察を深めることが必要であるとの結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、政府間国際機関(化学兵器禁止機関:OPCW)に派遣され実務に関わっていることから、本研究の当初の目的である核・生物・化学セキュリティ問題の包括的な考察は難しくなっている。このため、研究代表者の現在の研究環境を最大限に活用すべく本研究の対象を主として化学セキュリティに絞ることをもって対応することとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる平成25年度は化学セキュリティの問題を化学兵器禁止機関における取組みに関連させつつ考察することにより成果としてまとめることとする。 第1に、化学兵器禁止条約が汎用化学物質の平和利用確保のためにどのような制度を備えており、当該制度がどのように実施されてきたかを明らかにする。特に重要となるのは化学兵器禁止条約第6条に規定される「条約で禁止されていない活動」に関する検証制度の運用状況である。 第2に、条約規定の実施にとどまらずより広い文脈において化学兵器禁止機関の活動という観点から、これまで同機関が化学セキュリティ問題にどのように取組んできたかを明らかにする。この作業では平成13年(2001年)の米国同時多発テロが同機関の活動に与えた影響、加盟国間における議論の状況、事務局の行動などの分析が中心となる。 第3に、これまでの化学兵器禁止機関による取組みおよび平成25年4月に開催された第3回運用検討会議で合意された勧告を踏まえて、化学兵器禁止条約の規定に立ち返って今後の方策について検討を行う。具体的には同条約第6条2項において締約国に対して毒性化学物質が平和的な目的で利用されることを「確保するために必要な措置をとる」よう義務づけていることに着目し、汎用化学物質の平和利用確保のための規律メカニズムが各締約国の国内レベルで当該義務の実効的な履行を通じて強化されうることを提示する。 以上の研究を遂行するために、化学兵器禁止機関の動向を注視すべく実務家との意見交換を引き続き積極的に行う一方で、国際条約に規定される「確保する義務」がどのような可能性を有しているかについて学説および実行を詳細に検討したい。
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