2011 Fiscal Year Annual Research Report
方法論的進化を遂げる実証研究と独禁法ルールとのマッチングに関する基礎的研究
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22730043
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中川 晶比兒 北海道大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (20378516)
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Keywords | 社会法学 / 独占禁止法 / 実証研究 / 合併 / 差別化 / 同質財 / 消費者厚生 / 総余剰 |
Research Abstract |
本年度前半は、合併による市場支配力の形成維持強化(弊害)が起こる2つのシナリオが、経済理論モデルの進展及び実証手法の洗練という観点から現在も維持できるかどうかを検討した。市場内の複数企業が協調的行動をとることによって弊害が発生する場合については理論モデルをサーベイし、合併当事会社が単独で弊害をもたらす場合については、実際に合併シミュレーションが用いられた事例の調査を通じて、方法論的問題点がいかにクリアされているかを学んだ。前者のシナリオでは集中度といった古典的な定量的指標よりも、むしろ規模の対称性といった定性的な指標が重要となり、逆に後者では定量的指標の方が信頼できることが判明した。このような比較検討の付随的な発見として、同質財の数量競争市場で合併が起こる場合の単独行動による弊害について、現行実務は理論モデルとの対応を無視した基準を採用しているという問題がある。本年度後半は、このような経験的知見の進展を法学の側で受け止める枠組みの構築に苦心した。経済学と法学の問題関心ないし出発点が根本的に異なることを踏まえて、両者の議論を接合させなければ、法学に取り込むことは難しい。そこで、より広い視点から、現代の独占禁止法が抱える3つの課題、すなわち(1)独禁法的思考や論点解釈の説明力の向上、(2)コンプライアンス可能性の向上、(3)経済学との可能な限りシームレスな会話可能性の向上、に取り組む観点から、独占禁止法の目的論に遡って再検討した。法学者の支持する消費者厚生基準は、(1)(3)の点で問題を抱える一方、経済学者の支持する総余剰基準は、(1)(2)の点で問題を抱え、いずれも改善が必要である。そこで、これらに近いが、より改善された基準を模索して暫定的な結論を得た。最終年度での論文完成に向けて、鋭意執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間の研究計画の中で最も難しいと予想していたのが最終年度における経済学と法学との接合であり、本年度の後半にそれを前倒しする形で相当の時間を検討作業に費やすことができ、かつ一応の結論にたどり着けたのは、研究をスムーズに進める上で最大の進展であった。両者の接合に至らなければ、本研究は単に経済学の勉強をしただけの研究に終わるからである。またこの前倒しによって本年度に達成できなかった重要な作業はない
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本年度の作業を踏まえて執筆中の論文を完成させる。研究成果論文には、本年度で得られた法的判断基準の有効性を示す例として、合併を含める予定である。経済学者及び法学者の前で研究報告を行い、枠組みの有効性を検証する。本年度までにセミナー及び研究会で得られた道外の専門家との人的ネットワークは、来年度はこちらからのアウトプットを評価していただくために有効活用する。
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Research Products
(3 results)