2011 Fiscal Year Annual Research Report
社会保障と市場の協調・協働関係-福祉国家と社会法の新たなモデル
Project/Area Number |
22730047
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
笠木 映里 九州大学, 治学研究院, 准教授 (30361455)
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Keywords | 社会保険 / 保険 / 医療保険 |
Research Abstract |
本研究では、社会保障制度の発展およびその財政状況の困難等の現代的課題に由来して、社会保障と市場との関係が変容しつつあるのではないかという問題意識のもとに、社会保障制度の内部に存在する市場と、社会保障制度の外部に存在する市場との両者を見据えつつ、二つの従来対置されてきたスキームの関係を分析することを目指してきた。研究計画の最終年度となる本年度においては、特に従来から研究を行ってきたフランス法を中心として、社会保障と私保険の関係をテーマとした単行本を出版することを目指して、研究のまとめを行った(後述研究成果参照)。この研究においては、フランスの医療分野における社会保障と私保険の発展の歴史と辿り、また近年の両者の関係を分析することによって、社会保障と私保険が有する機能が、相互に影響を及ぼしあいながら時代を追って変遷してきたことを示した。特に、日本では社会保障と異質なものとして対置されることの多い私保険が、社会保障の一部として機能しつつあること、そして、こうした状況はフランスの社会保障制度の誕生・発展の歴史に強く依存していることを明らかにすることによって、その国の歴史的文脈によって両者の関係や私保険の役割が大きく異なり得ることを示すことができた。 その他、本研究計画に関連して、医療保険(混合診療)・年金保険(企業年金)等に関わる成果を複数発表した。これらの成果も含め、全体として、社会保障と市場の関係は、一方が他方を制限する、一方が他方に介入する、といったシンプルなものとしては説明できず、社会保障のあり方が市場の機能に影響を及ぼし、そのような市場を前提として社会保障が発展するという形で、時間の経過の中で相互作用を有しながら変容する、きわめて動的なものであることが明らかになった。そして、今日においては(きわめて簡略化して述べるとすれば)、社会保障制度が縮小する中で、社会保障を補う私的な市場が拡大し、それを受けて、この市場に対する社会政策的観点からの規制が発展し、さらにこれを受けて社会保障の縮小が進展する、というような方向性の変化が生じつつあることを、いくつかの国において確認できた。
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