2010 Fiscal Year Annual Research Report
医的侵襲行為の刑法上の正当化の根拠と限界に関する比較法的研究
Project/Area Number |
22730056
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古川 伸彦 名古屋大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (00334293)
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Keywords | 法学 / 刑事法学 / 刑法 |
Research Abstract |
本研究は、重大な医療事故が相次いで発生している社会的な背景と、その際に刑法上の責任の範囲を明確かつ適切に画定する必要性が喫緊の課題となっている学問的な背景を踏まえて、医的侵襲行為の刑法上の正当化の根拠と限界を探究することを、その目的とする。このような目的を達成するために、検討の対象として着目する具体的な観点は、犯罪論における「危険引受け」、「推定的同意」および「仮定的同意」の意義である。平成22年度は、当初の実施計画に基づき、医的侵襲行為の「危険引受け」に基づく正当化の根拠と限界について、日独の判例・学説の比較法的な分析によって、そのような観点が、「法益主体により引き受けられた危険に対して配慮する義務はない」という意味において、過失犯における負責を妨げる作用を有することを確認した。当該作用にとって重要な前提は、法益主体による意思決定の「任意性」の存在、および危険内容の「錯誤」の不存在である。たとえばドイツにおける近年の事案(NJW 2009, 1155)においても、被害者がいかなる危険を理解し、引き受けていたか(またはいなかったか)という点に関する認定が、犯罪の成否を分けるポイントとなっている。なお、ドイツにおける事故(とくに医療事故)と過失をめぐる議論については、その研究成果の一部を著した論文が、刑事法ジャーナル28号(2011年4月)に掲載された。また、医療事故においては、複数人の過失が競合することが多く、その点もまた学界の注目を集めていることから、神戸大学の大塚裕史教授をオーガナイザーとする「日本刑法学会『過失競合論』研究会」に参加し、検討を開始した。私は、「過失の競合と予見可能性」という標題で、すでに2011年3月に神戸大学において報告を行ったが、今後さらに分析を深め、2011年5月に開催される日本刑法学会第89回大会のワークショップにおいて、より踏み込んだ報告を行い、会員から意見を収集することを予定している。
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