2012 Fiscal Year Annual Research Report
医的侵襲行為の刑法上の正当化の根拠と限界に関する比較法的研究
Project/Area Number |
22730056
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古川 伸彦 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (00334293)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 刑事法学 |
Research Abstract |
本研究は、重大な医療事故が相次いで発生している社会的な背景と、その際に刑法上の責任の範囲を明確かつ適切に画定する必要性が喫緊の課題となっている学問的な背景を踏まえて、医的侵襲行為の刑法上の正当化の根拠と限界を探究することを、その目的とするものであり、かかる目的を達成するために、検討の対象として着目する具体的な観点は、犯罪論における「危険引受け」、「推定的同意」および「仮定的同意」の意義である。平成24年度は、当初の実施計画に基づき、医的侵襲行為の「仮定的同意」に基づく正当化の根拠と限界について、ドイツの判例・学説を収集・分析した。その結果、わが国においては必ずしも明瞭に認識されていない問題領域が判明した。具体的には、「医師の説明が不十分なまま行われた手術について、もし十分な説明があっても患者が同意し、同じ手術が行われたであろう」という仮定的な事情が、犯罪論上どのように考慮されるのか、あるいはされないのか、という議論である。ドイツにおいて、連邦裁判所によりある程度の判例法理が蓄積しているが、学説による評価は定まっておらず、それが比較法的アプローチを困難にしている。わが国にとって参照するべき内容を論定し、本研究の成果の一部として公表する必要性は高く、今後1年以内に論文化する準備に着手した。また、医療事故における重要な事案類型である過失競合事案に関して、本研究の成果の一部を著す「いわゆる過失競合事案における過失認定の在り方について」と題する論文が、『理論刑法学の探究5』(2012年5月、成文堂)に掲載され、さらに、同じく本研究の成果の一部を示す「過失競合事案における注意義務の重畳関係の論定」と題する報告を、日本刑法学会第90回大会(2012年5月)の共同研究分科会I「過失の競合」において行い、これは、同題の論文として、刑法雑誌52巻2号(2013年4月)に掲載されることとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検討作業の対象は、研究計画に沿って進行している。研究成果の一部は、論文や学会発表の形で公表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までの検討の対象としてきた、「危険引受け」、「推定的同意」、「仮定的同意」の議論について、相互の関連に留意しながら、医的侵襲行為の正当化という局面における理論的示唆・実際的意義を、改めて総合的に精察することによって、判断枠組みの精緻化を図りたい。とくに、「仮定的同意」は、わが国の刑法理論上、十分には知られていない領域であり、早急に研究成果を公表する必要性があるので、今後の方針として、平成25年度は、研究期間満了後に行うことを予定していた論文公表のスケジュールを早め、「医的侵襲と仮定的同意」(仮題)というテーマで論文の執筆を遂行する。
|
Research Products
(5 results)