Research Abstract |
平成22年度においては、文献研究,および研究会等における研究者・法律実務家との議論・意見交換を通じて,刑事事件処理の状況に関する内外の実情の把握に努めるとともに,これを踏まえた研究を行ってきた。そして,その成果の一部として,比較法的研究に基づく成果を公表している。これは,ドイツにおいて近時行われた,裁判所(裁判官),検察官,被告人および弁護人による裁判の内容に関する合意を経る形で行われる刑事事件処理に関する立法の経緯,および内容を紹介するとともに,その理論的意義について検討を加えたものである。そして,この研究においては,ドイツにおける刑事事件処理の正統性の根拠(従われるべき理由)について,「正しく認定された事実に基づいている」ということを表面上は維持しつつも,他方で,「手続関係人の合意に基づいている」という点も考慮に入れる方向へ移行する萌芽が見られることを指摘した。これは,ドイツにおいて,刑事裁判の正統性に係る基本的な考え方に変容が生じつつあることを指摘し,かつ,我が国においても,同じレベルの,刑事裁判に関する基本的な理解に改めて検討を加える必要性があることを示唆するものである。また,これと並んで,我が国における刑事事件処理との関係で,手続関係人,とりわけ被疑者・被告人の意思あるいは判断に与えられるべき役割や,被疑者・被告人に保障されるべき手続のあり方を検討するために今後行われる作業の,基礎をなすものといえる。
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