2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22730073
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
石畝 剛士 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60400470)
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Keywords | 履行不能 / 履行障害 / 履行請求権 / 債務不履行 |
Research Abstract |
本研究課題は、日本民法の履行障害法(債務不履行法)体系再編の準備作業として、履行不能「概念」の存在意義と、その法的構造及び効果を解明することを目的としている。2010年度は、ドイツ民法典(BGB)の制定過程を中心に、履行不能概念の体系化・精緻化を巡る議論を分析し、その理論的基盤となりうるいくつかの仮説モデルを提示した。2011年度は、前年度の作業を承けて、BGB制定後、及び、2002年に施行されたドイツ債務法改正(債務法現代化法)の前後に激しく交わされた議論を中心に、仮説モデルの今日的妥当性とその止揚可能性を検討した。これにより明らかとなったのは、凡そ以下の点である。 まず、原始的不能において、当事者が契約締結時に何を「予定」していたか(または、「予定」していなかったか)という意思は、それを無効とする旧来的思考の根拠(仮説)いずれにおいても、考慮要素として挙げられている。その限りでは、原始的不能=有効を主張する「契約基底的」な立場との隔たりは少ない。立場の分かれ目は、当事者が通常如何なる内容で契約を締結するかという原則的な意思解釈のスタンスの違いである。しかし、原則的意思を如何に設定するかは、当事者属性や契約目的物、「不能」と評価されるに至った原因等の変数に応じて変わりうるため、一概には決しえず、類型的な考察が必要となる。以上の意味において、原始的不能の契約の有効・無効という議論は、その問題設定自体に問題を孕んでいる可能性がある。次に、原始的不能と後発的不能の峻別について、両者を統一の要件下に置くという立場に対しては、(上とも関連するが)原始的不能では一定事項に対する意思の不存在を考慮する必要があり、錯誤無効と親和的であるのに対し、後発的不能についてはリスク判断完了後の事由のため事情変更の原則と親和的となるといった点で、部分的には重なるもののなお固有の領域があると考えられる。最後に、債務者解放事由としての帰責事由の存否に関しては、とりわけ不能・給付困難峻別論からは、帰責事由は「不能」判断に織り込み済みとも言え、独自に存否を問う必要性は乏しい。総じて、従来の議論の錯綜は、その前提としての「不能」評価の不誘明性に端を発していると解され、この点の解明が必須である。
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Research Products
(2 results)