2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22730089
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
坂口 甲 公立大学法人神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (20508402)
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Keywords | 受領遅滞 / 債権者の協力義務 / ドイツ法 / CISG / 学説彙纂 |
Research Abstract |
1.具体的内容2011年度は、学説彙纂19巻2章の翻訳作業を継続したほか、債権者の責めに帰すべき事由が何を意味するのかという問題意識から、CISGにおける両当事者の責めに帰すべき事由による履行障害に関する議論とドイツ法における債権者の責めに帰すべき事由による不能の議論を検討した。まず、CISGでは、債権者の行為が損害を惹起した蓋然性の程度というように、債権者の責めに帰すべき事由が損害の惹起(Verursachung)、つまり、因果関係として捉えられている。ただし、債権者の有責性(Verschulden)も考慮に入れるとする見解があり、この点については、争いがある。次に、ドイツ法では、領域説が債権者の責めに帰すべき事由をめぐる議論に厚みをもたしている。領域説によると、債権者の責めに帰すべき事由は、債権者の危険領域に起因する給付障害の分だけ、債務者の責めに帰すべき事由よりも拡がる。しかし、代表的論者であるボイティエン(Beuthien)の見解を子細にみてみると、少なくとも彼の領域説は、債権者による危険の引受けと同じである点に注意しなければならない。領域説を支持する見解は一時多く現われたが、現在では、少数説にとどまっている。その理由は、契約内在的な危険分配が尊重されるという近時の傾向に反して、領域説が契約外在的な危険分配に他ならないからであるとみられる。 2.意義と重要性債権法改正に向けた一連の議論において、民法536条2項の債権者の責めに帰すべき事由をめぐって、それが義務違反なのか、それ以上の意味を含んでいるのか、また、役務提供型契約において領域説的発想が認められるべきかが検討課題として浮上している。本研究は、まさにこの課題を扱うものであるとともに、これまでわが国で十分に議論されてこなかった問題を扱うという意味において、重要性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、両当事者の責めに帰すべき事由による履行障害について、ドイツ法の検討は終了しており、CISGの検討も進んでいる。第2に、CISGにおける受領遅滞の法的処理についての機能的考察は遅れているが、後述する通り、問題意識の変更等に伴い、この点の考察は、債権者の責めに帰すべき事由による不能に関するドイツ法の議論に置きかえる。この点の検討は、進んでいる。第3に、請負契約に関しては、ローマ法文の翻訳が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、債権者の責めに帰すべき事由が何を意味するのかに問題関心の重点が移行したこと、また、債権法改正との関係でもこの問題の解明が急がれると判断したことに伴い、この点に関する研究を進捗させるため、CISGにおける受領遅滞の法的処理の機能的な考察については、研究をいったん凍結し、その代わりに、ドイツにおける債権者の責めに帰すべき事由による不能に関する議論の検討を開始した。 第2に、請負契約に関しては、ローマ建築請負契約法におけるadprobatio問題に関する文献が当初の予想よりも多いため、ドイツ法の議論にまで立ち入らずに、ローマ建築請負契約法をめぐる議論に焦点を絞ることとする。
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