2011 Fiscal Year Annual Research Report
企業活動におけるリスクマネジメントと取締役の法的責任
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22730090
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
南 健悟 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (70556844)
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Keywords | リスクマネジメント / 内部統制システム / 取締役の責任 / 法令遵守体制構築義務 / Red Flag対処義務 / コンプライアンス |
Research Abstract |
平成22年度までは、事前のリスクマネジメント-とりわけコンプライアンス・リスクの発生を予め防止する方策-と取締役の責任について検討を行った。そして、平成23年度においては、コンプライアンス・リスクを防止する法令遵守体制(内部統制システム)構築に係る取締役の責任について検討を重ね、同時に、会社内で生じたコンプライアンス・リスクに対する事後的な対処に係る取締役の責任について検討を行った。本研究の目的は、企業活動の際に生じるリスクについて、取締役がどのような役割を果たし、どこまで法的な責任を負うべきか、ということを明らかにすることであるが、平成23年度においては、コンプライアンス・リスクに対する事前及び事後の対処方策と取締役の責任について明らかにした。事前のリスクマネジメントについては、既に平成22年度において、いくつかの成果を公表したが、平成23年度においては、事後のリスクマネジメントを中心に検討を行い、以下のような結論を導いた。すなわち、第一に、アメリカ法においては、会社内で発生した違法行為等の徴候(RedFlag)に対して、適切に対処すべき義務が存在することが判明した。第二に、取締役がRedFlagを認識していたか否かを判断するに当たっては、直接取締役の主観を立証するのではなく、長期にわたる違法行為等の継続から判断されていることが示唆された。また、第三に、Red Flagへの対処についても、それを調査したり、専門家を交えての善後策の検討・公表をしたりすることが、取締役に義務づけられることを指摘した。加えて、取締役のRed Flagへの対処については迅速的に行われるべきと考えられていることも重要であると考えられる。つまり、アメリカ法においては、事後のリスクマネジメントとして、発生リスクに迅速に対応することの重要性が説かれるのである。そして、これらのことを検討した結果、日本法においても同様の考え方が取られるべきであると指摘する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画では、平成23年度において事後のリスクマネジメントや取締役の不正行為是正義務の比較法的考察を行う予定であったが、アメリカにおける取締役のRedFlag対処義務の検討を通じて、当該目的の多くは達成できたと考えられる。また、これらの成果は「企業不祥事と取締役の民事責任」という題目で論文を平成22年度に引き続き公表することができ、また日本私法学会における口頭発表という形で公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度までの研究を踏まえ、申請時における研究計画に従い、今後はコンプライアンス・リスク以外のリスクに対する管理を中心に、研究を行うことを予定している。一部は既に、平成22年度に「リスク管理と取締役の責任-アメリカにおけるAIG事件とCitigroup事件の比較」商学討究61巻2・3号(2010年)209頁という形で公表を行っているが、その後のアメリカにおける動向を把握した上で、コンプライアンス・リスク以外のリスク(信用リスク・市場リスク等)に対する管理と取締役の責任について研究を進めていく予定である。なお、平成24年度においては、上記論文公表後のアメリカにおける動向を把握するため、実際に、アメリカに渡航し、資料収集及び研究打ち合わせを行うなどして、今後の研究を推進していく予定である。
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