2012 Fiscal Year Annual Research Report
民事実務における「履行期前の履行拒絶」の実態の解明
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22730096
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Research Institution | Hakuoh University |
Principal Investigator |
谷本 陽一 白鴎大学, 法学部, 講師 (50515252)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 履行期前の履行拒絶 / 債務不履行 / 契約危殆 / 交渉 / 適切な保証を求める権利 / 解除 / 受領拒絶 / 弁済の提供 |
Research Abstract |
本年度は、履行拒絶の裏側である受領拒絶を中心に据えて、国内法の研究を遂行した。具体的には、これに関連する受領遅滞制度および弁済・弁済の提供制度について、近年提出された各種の債権法改正案におけるそれらの制度の取扱いと従来展開されてきた判例・学説の理解とを比較検討し、前者が後者を明確化しつつ、学説の対立を解消しようとするものであることを明らかにした。この成果は①谷本陽一「受領遅滞」円谷峻(編著)『民法改正案の検討 第1巻』(成文堂、2013年)123-135頁および②谷本陽一「弁済・弁済の提供」円谷峻(編著)『民法改正案の検討 第2巻』(成文堂、2013年)66-84頁として公表された。 これと並行して、比較的最近の履行拒絶に言及する裁判例(東京地判平成22年9月21日判時2100号64頁)の検討を進め、2012年7月28日に白鴎大学民事判例研究会において報告を行った。 また、不可抗力は、実務上、履行拒絶権の正当な根拠となりうる反面、不当な履行拒絶の口実にもなりうるが、これを検討するための準備作業として、不可抗力という言葉の根を探った。この語は外国法の術語の翻訳として生み出されたが、その言葉には他国が込めた意味だけでなく、日常的な天災に関して日本各地で生み出された多種多様なルールを包括する意味も込められたことを突き止め、併せて不法行為法における不可抗力免責の現状を整理した。この成果は国際取引法研究会(2012年5月26日・明治大学)において報告され、谷本陽一「不可抗力と災害時における不法行為について」石村耕治=市村充章(編著)『大震災と日本の法政策』(丸善プラネット、2013年)259-289頁に結実した。 その一方で、2012年9月にハンブルグに出張し、マックス・プランク外国私法・国際私法研究所において国内ではアクセスできない資料の収集を行い、これらの検討を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体として、研究の進行は多少遅れているものの、研究成果の報告は予定どおり遂行された。この遅れは当初研究計画書に掲記した個別の研究に予定していたよりも深入りしたためである。進行に多少の遅れはあったが、得られた成果はその分充実したものとなっている。以下、個別にみていく。 日本法における履行拒絶に関連する諸制度の検討については、上記のとおり、受領遅滞制度および弁済・弁済の提供制度についての論文を公表した。前年度から継続してきた研究が結実したものであり、これについては出版が予定より遅れはしたものの、十分な成果を達成している。また、これらの研究の過程で履行拒絶に言及する裁判例(上記東京地判平成22年9月21日)に接し、研究はより充実したものへと発展している。この裁判例の検討は当初の研究計画には含まれていないものであるが、本研究には欠くことのできないものであるため、これにも新たに力を注ぐことになった。その結果、他の研究の進行に遅れが生じたが、これにより研究全体の達成度は上昇したと考える。 前年度から研究が継続されていた不可抗力免責についても、その成果を国際取引法研究会で報告し、論文として公表した。当初の計画では国際取引法研究会では別の報告を行う予定であったが、不可本論文の完成度を高めるために、計画を変更し、この報告を行った。出版の遅れにより成果の公表が遅れたが、その他の点では当初の研究目的を十分に達成できた。反面、当初報告する予定であった別の報告については機会を逸し、現在、研究が大幅に遅れている。これについては計画を修正し、2014年度に研究を進める予定であるが、時間の都合上、当初の計画ほどの達成度は期待できないと思われる。 ドイツでの資料収集については、ストライキによる障害があったものの、予想以上の資料収集ができたために十二分に成果があったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の基本に変更はない。当初の研究計画に従って研究を遂行する。 現在は、研究の幅を膨らませていく段階ではなく、これまでの個別の成果を総合し、まとめに入る段階にある。そのため、これまでの研究成果を再検討し、適宜修正を施し、個別の成果を相互に関連づけて整理していくことが中心となる。もっとも、2012年度の研究において十分に検討できなかった、履行期前の履行拒絶に関するイギリスにおける新しい傾向については、当初の計画に追加して検討を進める予定である。そのため、これまでの研究成果のうち外国法に関わるものについては、そうでないものと比べて修正の幅は大きくなり、その分、研究に時間を要すると予想される。この点の調整を効率的に行うために、適宜、研究会等において中間報告を行い、そこで得られた指摘をもとに修正・再検討を進めていく。 また、こうした成果を総合したものを書籍として出版するために、研究と並行して、出版社との交渉を進めていく。 以上の研究を進める裏側で、本研究の到達点を明確にするとともに、本研究において十分に検討できなかった課題をも洗い出し、次の研究に繋げる準備を行う。
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