2010 Fiscal Year Annual Research Report
日常生活に食い込む政治:職場と地域におけるソヴェト民主主義と家族
Project/Area Number |
22730124
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
河本 和子 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (50376399)
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Keywords | 政治学 / 民主主義理論 / ソ連・ロシア史 |
Research Abstract |
本研究の目的は、規範として公私の区分を要しないソヴェト民主主義体制下で、実際のところ公私がどのように存在していたのか、していなかったのかを探ることにある。題材として、1960年代に社会団体として住民間の紛争処理などにあたった同志裁判所について検討した。 研究の具体的内容としては、第一に先行研究をあたった。欧米の研究では数が少なく、ソ連にはいかなる意味でも民主主義はないとの前提の下で、この問題が見落とされていたことが分かる。ソ連ないし現在のロシアにおいても十分研究されているわけではない。第二に、法学専門誌を閲覧し、当時の同志裁判例を広く集めた。また地方政府が発行する雑誌を閲覧し、実際に同志裁判所の監督を任されていた部局がどのように問題に関与したかを調査することができた。第三に、モスクワ州公文書館で関係文書を閲覧した。文書から見るに、同志裁判所に熱心に携わらない市民がいると批判する代議員がいる一方、行政の協力不足を嘆く市民もおり、状況は単純ではない。 上記の調査に基づく考察を、2010年10月に行われたロシア史研究会大会で報告した。事例の分析から判断するに、介入が控えられるべき部分として認識された私的部分は、男女・夫婦関係のみであり、この関係においても介入は可能であった。活発な同志裁判所活は、トラブルを抱える市民に救う契機をもたらす一方、息苦しい日常生活を招きかねない存在であった。ソヴェト民主主義は、それを支えるべき市民に嫌われかねない息苦しさを内包していたことになる。ソヴェト民主主義が見せかけだ、とのよくある批判だけではなく、このように内在的に捉えていくことは、我々の民主主義を適切に評価する機会を与える意義を持つと考える。
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Research Products
(1 results)