2012 Fiscal Year Annual Research Report
公共財供給技術の普及についてのゲーム理論による考察
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22730155
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
平井 俊行 富山大学, 経済学部, 准教授 (00383951)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / 公共財 / 技術情報取引 |
Research Abstract |
(1) 平成23年度に引き続き、公共財供給技術のような正の外部性を持つ技術の移転問題についての分析をおこなった。このような問題では、正の外部性によりプレイヤーはほかのプレイヤーたちの技術導入にフリーライドするインセンティブを持つ場合がある。そのため、技術移転交渉への参加が強制できない場合、技術の全体への普及は厚生を最大にするものであっても達成されない可能性がある。実際、技術移転が一回きりしかおこなわれないような状況では、全体への技術普及が達成されないことがあることを明らかにした。一方、逐次的な技術移転を許した場合、(逐次的な移転が許されているにも関わらず)一回目の移転交渉で必ず全体への技術普及が達成されることも明らかにした。さらにこのとき、技術情報が特許などで保護されているかいないかに関わらず同様の結果を得ることができることも明らかにした。 なお、この研究の成果は富山大学ワーキングペーパーとして公開してある。(http://hdl.handle.net/10110/10665) (2) 正の外部性を持つ技術の移転問題を戦略的状況としてとらえるための基礎研究としてcommon agency gameと呼ばれる、1人のagentと複数のprincipals間の関係を記述するある種のメカニズムについての研究をおこなった。このメカニズムにおいて、各principalが有限の予算制約を持ち、選好が序数的である場合を考え、truthful equilibriumと呼ばれる種の均衡において、agentが必ず正の利益を得られるための十分条件および、agentの利益が必ず0になるための十分条件を導出した。(最近の海外研究者の結果により、この研究はさらに発展可能なことが明らかになったため今年度も継続する予定。) (3) 他の基礎研究の成果をワーキングペーパーとして公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、正の外部性を持つような技術が全体への普及が厚生を最大にするにも関わらず、各プレイヤーはほかのプレイヤーたちが技術移転を受けることに対してフリーライドするインセンティブを持つような状況を考えている。主要な目的は、そのような状況において様々な技術移転の枠組を考え、そのもとで全体への技術普及が可能か、また技術移転によって初期の技術保持者に(たとえば技術開発をした際のサンクコストなどをカバーするのに)十分な利益を与えることは可能かを考えることである。 これまでの研究で、(参加が強制されていないような)交渉による技術移転についての分析は、逐次的な技術移転を考えることで、技術情報が特許などによって保護されているか否かにかかわらず、全体への普及が可能になるという一定の結果を得ることができた。一方、全体へ普及した際の技術の初期の保持者の利益については多くの可能性があるものの、十分な利益を与えることも可能であることが示された。 また、common agency gameと呼ばれるメカニズムによる技術移転の枠組を考えている。この分析では既存の研究結果によって効率的な結果が得られることは知られているので、主に初期の技術保持者の利益に着目する予定である。現状では、いくつかの新たな問題も見つかったものの、基礎的な分析については一定の結果を得ており、今後正の外部性を持つような技術の移転問題へ応用することは可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までにおこなった社会状況の理論を用いた研究の問題点として指摘されているのは主に、(1)全体への技術の普及がなされた際に可能な利益配分、特に技術保持者が獲得できる利益、については多くのものが解に含まれてしまうという意味で明らかになっていない、(2)逐次的な移転・再交渉というある種動学的な考え方が含まれているにもかかわらず、考えられているプレイヤーたちが近視眼的であるということは問題ではないか、という2点だった。今年度は、これらの問題点を解決するための研究をおこなう。 (1)については、昨年度までの研究を引き続きおこなう。提携形ゲームにおける仁やシャプレイ値を用いた規範的な分析をおこなう一方で、昨年度基礎研究としておこなったBernheimとWhinstonによるmenu auctionを用いた際に得られる利益配分について分析する。その際、発展としてFurusawa and Konishi (2011)で考えられているようにmenu auctionに参加しないことをプレイヤーたちが戦略的に選択できるような場合についても考察し、昨年度までに考えた逐次的な移転・再交渉のプロセスを戦略的な枠組みにおいて分析することも考えている。 (2)については、Harsanyi (1986)やChwe (1994)らによる間接支配の考え方をこれまでに分析してきた社会状況の理論によるモデルに導入し、分析をおこなう。間接支配は通常の支配よりも弱い概念で支配がおこないやすくなる。そのため、安定集合の拡張である社会状況の理論における解についても、一般的にはより精緻化されたものが求められる。(ただし、単純に包含関係が成立するものではない。)この意味で間接支配を用いた分析をおこなうことは、1の問題に対する別のアプローチとなることも期待している。
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