2010 Fiscal Year Annual Research Report
国民皆保険制度が富の再配分に与える影響:動学的ライフサイクルモデルによる分析
Project/Area Number |
22730159
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
HSU Minchung 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (20467062)
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Keywords | universal health insurance / private health insurance / wealth accumulation |
Research Abstract |
1.世帯の不均一性、金融市場の不完全性及び任意健康保険(PHI)の内生的需要を取り入れた動学的一般均衡型世代重複モデルを開発。世帯の不均一性は、所得、医療費、退職等の不確定要素に対する異なる認識に起因し、労働能率変化による所得のショックの完全な補償は得られない。医療費は国民皆保険(UHI)がない場合、PHI購入により一部補償可能であるが、万人がPHI購入の意思・経済力を有するわけではなく、民間保険会社には価格差別化インセンティブがあり、リスク共有及び分散の効果が低い。 2.UHI提供がもたらす影響について定量的調査を実施。UHI不採用を基準にUHI提供の経済状態を比較すると、クラウディングアウト効果が認められ、UHI提供の場合には貯蓄額が減少、資産保有が大幅に低下、また、PHI契約率も著しく低下し、この傾向は高所得世帯で顕著であった。高所得世帯と低所得世帯では極めて異なる傾向(高所得世帯はPHIより資産維持を好み、低所得世帯は貯蓄維持より民間及び社会保険に依存)が認められた。 給与税で賄われるUHIは富の再配分効果を有するが、公的UHI提供は社会福祉の再配分に影響している点が認められた。富の再配分効果は不明瞭で、UHI提供によって高所得世帯より低所得世帯で資産が押し出されることから、富の不平等が悪化する可能性がある。これに対し、社会福祉の再配分効果は明らかで、若年者より高齢者、高所得世帯より低所得世帯に、大きな利益が認められた。 3.本研究は不完備市場環境における公的保険提供の影響に関する調査文献に沿ったものである。既存文献では、医療費ショックは各世帯の支出及び貯蓄に関する判断に重要な要素であると広く認められているが、健康保険に関する判断は調査モデルに含まれていない。Jeske & Kitao (2009)では、米国健康保険に対する税制度のもたらす社会福祉効果の研究に類似のモデルが適用され、これは個々の世帯が健康保険を任意購入できるモデルである。本研究ではUHIの義務加入及びPHIの購入判断との相互関係の分析に焦点を合わせた。さらに、Jeske & Kitaoでは非弾力的労働供給を仮定しているため、歪みのある税政策が消費と余暇に関する判断に及ぼす影響については触れていない。本研究では労働供給の内生的選択を取り入れ、社会福祉の研究におけるその重要性を確認した。
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