2011 Fiscal Year Annual Research Report
実質為替レートとインフレに関する研究:財レベルの価格粘着性からのアプローチ
Project/Area Number |
22730166
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
敦賀 貴之 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (40511720)
|
Keywords | 一物一価法則 / 実質為替レート / 情報の不完全性 |
Research Abstract |
平成23年度は、情報の不完全性の観点から、企業の価格付け行動が一物一価の乖離(同一財の異なる地域における価格差)の変動と持続性に及ぼす影響に関する研究を中心に行った。研究成果は"Noisy Information, Distance and Law of One Price Dynamics Across US Cities"というタイトルで学外に公表した。なお、この論文は現在、学術誌に投稿中である。 この研究では、一物一価研究における交易費用が果たす役割を実証・理論の観点から分析している。まず、実証分析として交易費用の近似としての都市間の物理的距離が、一物一価の乖離幅の変動(volatility)や一物一価の乖離の持続性(persistence)を増大させるのか減少させるのか、米国の都市別価格データを用いて検証した。検証の結果、都市間の距離が長くなるほど、一物一価の乖離幅は大きく変動するという既存研究の結果を改めて確認し、そのうえで一物一価の乖離幅の持続性もまた、都市間の距離が長くなるほど大きくなりがちであることが分かった。 さらに、理論分析として、上記2点の実証的な事実を説明する理論モデルを構築している。理論分析では、既存の理論モデルが、物理的距離と一物一価の乖離幅の変動の間の正の相関をうまく説明できる一方、物理的距離と一物一価の乖離の持続性の間の正の相関はうまく説明できないことを指摘した。そのうえで、この後者の問題を克服するためには、企業が直面する需要に関し地域間で情報が不完全なケースを仮定した分析を行った。分析の結果、上記の不完全情報下では、物理的距離と一物一価の乖離の変動の間の相関だけでなく、物理的距離と一物一価の乖離の持続性の間の正の相関も同時に説明できることが分かった。さらに、理論モデルに財レベルの価格粘着性を導入することで、モデルのパフォーマンスが一層改善することもわかった。
|