2011 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス福祉国家再編の思想研究:サッチャリズムからニュー・レイバーへの史的再評価
Project/Area Number |
22730172
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平方 裕久 九州大学, 大学院・経済学研究院, 助教 (90553470)
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Keywords | イギリス / 福祉国家 / メジャー政権 / サッチャリズム / ニュー・レイバー / 国民保健サービス(NHS) / ワークフェア / ニュー・パブリック・マネジメント |
Research Abstract |
本研究の二年目にあたる本年度には、イギリス福祉国家再編過程の歴史的意義を明らかにするために、金融・財政政策の展開と関連づけながら、社会保障および医療政策について研究を進めた。サッチャー政権の誕生以来、イギリスの金融・財政政策では、基本的には昂進するインフレを抑制し、経済環境を安定的に維持することが模索された。しかしながら、当初サッチャー政権の掲げたマネタリスト的な金融・財政政策は成果を挙げることができず、次第に転換されることになった。他方で、メジャー政権およびブレア政権においては、直接的なインフレ水準の管理が試みられ、明示的な誘導水準が打ち出されるようになった。このようにインフレ水準を統制するという経済政策目標は、財政支出を拡大せずに効率的なサービスの提供を図ろうとする点で社会保障・医療にも顕著な影響を与えた。つまり、効率的な運営が模索されたが、同時に限られた財源の効率的な活用を模索するのみでは十分なサービスを提供するには限界のあることも明らかになった。この一連の展開の検討から、自助努力を強調し競争を重視したことから、「競争志向の経済思想」と捉えることができるサッチャー政権の政策思想に対して、その継承者であるメジャー政権では、十全な市場競争を実現するために管理が欠かせないとする「管理の経済思想」というべき側面も強調されるようになったことが明らかになった。というのは、メジャー政権では競争志向の経済思想が継承され、徹底されたが、十全な競争を維持するためには、競争の条件をより積極的に整備し、管理するだけでなく、その成果についても監視しなければならないということが明確に意識されるようになったからである。このような思想はニュー・レイバーに先鞭をつけるものでもあり、イギリス福祉国家の再編過程において、メジャー政権は軽視されるべきではないことが改めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの研究で、イギリス福祉国家の再編過程の歴史的意義を究明するという本研究は、金融・財政政策と社会保障・医療政策の展開を押さえたうえで、サッチャー、メジャー、ニュー・レイバーの各政権における政策を基礎づけている思想を明らかにすることができた。次年度に、これらの一連の福祉国家に関する経済・社会思想のなかに位置づけなおし、評価することによって、研究を完成することができるように思われるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究では、イギリス福祉国家再編の思想について、歴史的に意義づけることが主要なテーマとなる。サッチャー、メジャー、ニュー・レイバーと展開されてきた福祉国家再編について、政策とその展開とを吟味することによる思想のあぶり出しのみならず、それらを経済思想の展開とも関連づけながら多角的な把握に努めることが重要となる。したがって、福祉国家の再編過程を正確に捉えるために、継続して政党のパンフレットや政府文書の収集・講読を進めるのみならず、ベバリッジやハイエクらの経済思想との関連についても吟味を進めていく必要がある。
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