2011 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭ドイツにおける都市失業保険の展開―「社会都市」論の実証的研究―
Project/Area Number |
22730279
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
森 宜人 関東学院大学, 経済学部, 准教授 (10401671)
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Keywords | 社会都市 / 失業保険 / ガン・システム / 介入的自由主義 / 社会国家 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近代ヨーロッパの「社会都市」の歴史的意義を実証的に考察する一環として、20世紀初頭ドイツにおける都市自治体による失業保険制度の導入プロセスとその政策思想上の背景、そして運用実態を実証的かつ総合的に明らかにすることである。 研究最終年度の本年度は、昨年度に行った2回の学会報告の報告原稿を元に、『社会経済史学』と『歴史と経済』で論文を発表するとともに、研究成果の最終的な取りまとめを行った。その骨子は次の通りである。ドイツは世界に先駆けて1880年代に一連の社会保険制度を導入したが、失業保険だけは導入が遅れ、最終的に成立するのは1927年のことである。だが、都市レベルではすでに1900年代よりその萌芽がみられた。1907年に導入が始まり、都市失業保険の代名詞となったガン・システムがそれである。ガン・システムとは、失業した組合員に失業手当を支給する労働組合に対して、その支給額に応じて都市自治体が補助金を支出する制度である。こうした特徴を有する都市失業保険は、公的介入を通じて何よりも都市内の階級対立の抑制を目指していた点において、当時の都市政策理念となっていた「都市の社会的課題」の目的に適うものであった。また、「都市の社会的課題」の方法論的特徴は、自発的な集団的自助を促進するための公的介入にあり、それゆえ失業保険においても、対象を自助可能層に限定し、労働組合の失業手当という既存の集団的自助を促進するガン・システムに重点が置かれていたと考えられる。このような特徴は、「介入的自由主義」を体現していた同時代のイギリスの国家的失業保険と比較すると、より明瞭となる。以上より、20世紀初頭ドイツの都市失業保険は、国家的失業保険の不在という与件の下、「都市の社会的課題」の論理にその普及要因を求めることができるとともに、それゆえに生じた「介入的自由主義」との乖離点にその限界があったといえよう。
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