Research Abstract |
1990年代以降,分権的人事への転換や人員削減や業務のアウトソースが進められるようになり,企業内での地位は低くなる傾向にある。こうした実態を踏まえ,本研究では,人事部の地位,より具体的には人事部門の活動の正当性や影響力が,どのように決定・変化するかについて,理論的・経験的に明らかにしたい。 昨年度は,関連する事象についての一般的傾向をとらえるため,ある飲料メーカーにおける人事制度の変化,およびそれに伴って進展した人事部門の体制の変化について,定性的な情報を収集した。この会社の競争力の源泉として,従業員の結束の強さ,その中での年長者から若年者への能力開発のための働きかけ,ということが自覚されていた。しかし,経営環境が複雑化する中,現場の自律性が企業全体のパフォーマンスに直結するとみなされなくなった。こうした中,この会社の人事部門は,(1)多様な職務遂行能力の涵養,(2)人から人への知識移転ではなく一人ひとりの自己学習を通じた(1)の実現,(3)そのための人事制度の整備,ということを重視する取り組みを様々な形で打ち出すようになった。 こうした取り組みは,近年の人事管理においては,人事部門からのトップダウンという色彩が薄れていることを含意する。しかしそのことは,人事部門(あるいは経営者)によるラインへの統制が弱まっていることを示唆しない。つまり,統制・統合はより潜在的で間接的なものとなり,従業員一人一人の自律性を知覚の上では損なうものではない。人事部門の権力や影響力は,そうした力が向かう対象(現場),あるいは力を行使する対象(人事部門自身)による自覚の度合いの大小とは必ずしも一致しないのである。
|