Research Abstract |
本研究の目的は,日本企業と個人との関わり合いが,時間の経過とともにどのように変化するのか,ということを経験的に明らかにすることである。これまでに,製薬企業における2度の全数調査を実施した。これで,本研究の申請時点ですでに実施していた調査(2009年に実施)とあわせて,3時点の経時データが手に入ったことになる。この3時点データを用いて,心理的契約の変化,具体的には,同じ回答者の契約が時間の経過によってどのように変化するのか,また契約の変化に対して影響を与える要因はどのようなものか,という点について検討した。分析の結果,会社側によって契約の不履行が行われると,従業員は(1)その契約に対する期待水準と,(2)自分自身の契約履行水準を低下させ(3)離職意図を高め,反対に,会社側によって契約履行が行われると,従業員は(1)その契約に対する期待水準と,(2)自分自身の契約履行水準を上昇させ,(3)離職意図を低下させること。これら3つの中で,一般に従業員によって採用されやすいのは(1)期待水準の変更のオプションであることが分かった。従業員は,当該企業における現実に合わせるかたちで,自らの期待水準を柔軟に自己調整する主体である,という結果である。こうした期待の調整作用によって,入社当初には非現実的な期待をもっていたとしても,それが少しずつ当該企業における現実的な水準へと収斂していくのである。ただ,入社後間もない新入社員は,3つのオプションのうち,(2)自らの契約履行水準の低下を選択する傾向にあることもわかった。このような違いが,なぜ生じたのか。新入社員が,他の従業員に比べて自らの履行水準の低下という,より直接的な反応を示す理由は何か。当該企業における現実的な期待水準を新入社員が抱くようにするために,企業はどのような介入を行うことができるのか。こうした点が,今後の課題として残されている。
|