2011 Fiscal Year Annual Research Report
太陽光発電のイノベーションと企業間競争における複数製品分野間の影響関係
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22730293
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 陽一 神戸大学, 経済経営研究所, 講師 (00510249)
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Keywords | イノベーション / 経営学 / 太陽光発電 |
Research Abstract |
太陽光発電において日本の産業技術は一貫して世界トップ水準を維持してきたが、本格的な成長が始まった段階で、主導的日本企業の競争ポジションが低下した。太陽電池の世界市場でシェア上位を占めてきた日本企業がシェアを減少させ、代わって中国の企業がシェアを増大させている。 エレクトロニクス機器を中心に、日本企業が実用化で先行しながら東アジアの企業に急速にキャッチアップされる現象について、多くの研究が蓄積されている。先行研究はこの問題に対して有用な示唆を与えてきたが、それぞれの研究は特定の製品分野を詳細に分析したものであり、必ずしも産業間の関連性を念頭において分析したものではない。ところが太陽光発電の分野は他の産業との技術的関連が強く、また他業種の企業が次々に参入している。本研究は、複数製品分野間の影響を考慮して太陽光発電産業を分析することによって、異なる産業からの技術や企業の流入が太陽光発電の産業構造や競争構造に与えた影響を明らかにし、このように重層的な競争状況を分析するための枠組みを提起する。 研究実施計画では、太陽電池産業の発展段階を1990年代以前、1990年代、2000年代以降の3つに分け、本年度は1990年代以前について調査する予定だった。しかし、先行研究調査を経営学以外の文献に広げた結果、1990年代までは他の論者による論考をまとめることで多くの知見を得ることができた。そこで計画を前倒しして、2000年代以降の企業間競争の推移を調査した。太陽光発電の重要デバイスである太陽電池は、世界の約6割が中国と台湾の企業によって生産されている。これらの企業は、半導体生産で培われた装置メーカーの技術を活用している。技術的に低い参入障壁からくる熾烈な低価格化競争を勝ち抜くために、新規参入企業は近年になって垂直統合を進めている。一般的に言って、垂直統合的な産業構造から水平分業型のそれへと移行するには長い時間がかかると考えられるが、太陽電池の分野では突如として水平分業型の産業構造が生じ、しかもそれが急速に垂直統合的な産業構造へと変化しつつあると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、2000年代に至るまでの太陽光発電産業の技術と産業の発展の歴史をインタビューなどによって調査する予定だったが、経営学以外の分野における関連文献を調査した結果、想定していたよりも豊かな知見を得ることができた。また、関連文献の調査から、研究の目的を達成するためには1990年代以前の技術発展史に精通していることよりも、日本企業の競争優位性が失われ、企業の盛衰が劇的に変化した近年の動向を精査することの重要性の方が高いと判断し、当初の計画を前倒しして進めることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査から、太陽電池の分野では、様々な製品分野で発展した技術や企業が流入することで、これまで当たり前だと思われていた産業の成熟化のプロセスがそのまま成立しなくなっている可能性があるのではないかという見立てを得た。今後は、従来、産業の成熟化のプロセスがどのように考えられてきたのかを詳細に検討し、それと併せて、内外の太陽電池メーカーが垂直統合、水平分業といった組織の境界の選択をいかに行ってきているのかを精査する。
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Research Products
(2 results)