2012 Fiscal Year Annual Research Report
太陽光発電のイノベーションと企業間競争における複数製品分野間の影響関係
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22730293
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 陽一 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (00510249)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | イノベーション / 経営学 / 太陽光発電 |
Research Abstract |
太陽光発電の市場規模は急速に拡大している。その本格的な成長が始まった段階で、これまで主導的な存在だった日本企業の競争ポジションは急激に低下した。エレクトロニクス機器を中心に、日本企業が実用化で先行しながら東アジアの企業に急速にキャッチアップされる現象について、多くの研究が蓄積されている。先行研究はこの問題に対して有用な示唆を与えてきたが、それぞれの研究は特定の製品分野を詳細に分析したものであり、必ずしも産業間の関連性を念頭において分析したものではない。ところが太陽光発電の分野は他の産業との技術的関連が強く、また他業種の企業が次々に参入している。本研究は、複数製品分野間の影響を考慮して太陽光発電産業を分析し、異なる産業からの技術や企業の流入が太陽光発電の産業構造や競争構造に与えた影響を明らかにする。 この研究目的に照らして、本年度は、大別2つのフィールド調査を実施した。第1に、太陽電池技術開発の歴史を跡づけるために、日本の有力な太陽電池メーカーへのヒアリングを実施した。第2に、2012年7月から再生可能エネルギーによる電力の全量買取制度が開始されたことをうけて、それによって新たに存在感が増すとみられるプレイヤー(例えば電力システム管理の事業者や金融関連事業者など)の狙いや技術的背景について、聞き取り調査を実施した。太陽光発電の分野には多様なバックグランドをもった企業が参入しており、とりわけ本年度は大規模な太陽光発電施設の設置にあたって新たに参入してきた企業に関する知見をえた。その一方で、多様な企業による競争は錯綜した状態にあり、またその競争状況が急激に変化していることが明らかになった。調査を通じて、現状では半導体産業から結晶シリコン太陽電池への技術の流れに焦点を当てることが、産業全体の競争に対するインパクトの点においても研究実施の点においても、最も効果的だという認識に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
太陽光発電の技術革新と関連があると思われる他の分野として、まず太陽電池では半導体、液晶ディスプレイ、光センサー技術などがあり、太陽光発電システムとしては、その他の既存の大規模発電システムの管理、送電技術や蓄電技術などがある。また、近年では大規模な太陽光発電所の設置にともなって資金調達の重要性が増しており、そのための金融関係の技術も関わっている。その一方で、2012年7月から再生可能エネルギーによる電力の全量買取制度がスタートしたり、あるいは中国の太陽電池最大手メーカーの経営が立ち行かなくなったりと、産業全体が急速に変化しつづけている。こうした中で、当初の研究計画どおりに、さまざまな分野で培われた技術が太陽光発電技術に与えてきたさまざまな影響を調査するのは、事前に想定した以上に複雑であり、かつ分野によっては急速に調査結果が陳腐化してしまう可能性がある。そのため、そのまま続けると4年間という計画の中で何らかの成果をあげることができなくなることを危惧した。そこで本年度は、これまでに続けてきた太陽電池の技術革新に関する調査と並行して、分析の焦点を絞る作業を実施した。結果として、本来ならばすでに終えられているはずの、太陽光発電に関するさまざまな技術の出自や関連企業のバックグラウンドの分析を終えることができなかった。ただし、調査対象の限定は終了し、結晶シリコン太陽電池の技術革新における半導体(とくに製造装置)の技術革新が与えた影響と、それによる近年の企業間競争へのインパクトについて、これまでの調査を踏まえて深堀りすることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
分析の対象を結晶シリコン太陽電池に半導体(とくに製造装置)が与えた影響に限定し、その半世紀を超える歴史的な経緯を詳細に検討する。さまざまな技術方式が提案されている太陽電池の中でも結晶シリコン太陽電池は最も多く利用されている方式である。これまでに得られた知見をまとめ、新たな調査を実施することによって、太陽光発電の分野において先行した日本企業に対して急激に存在感を強めた中国企業という構図について、技術革新の歴史的な経緯からの分析を行う。
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Research Products
(1 results)