2010 Fiscal Year Annual Research Report
国際会計基準のコンバージェンス・アドプションと業績報告に関する実証研究
Project/Area Number |
22730376
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
若林 公美 甲南大学, 経営学部, 教授 (20326995)
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Keywords | 国際会計基準 / IFRS / 業績報告 / 包括利益 / 公正価値 |
Research Abstract |
本研究では、会計基準のグローバル化の流れのなかで、2011年3月決算からわが国で導入が義務付けられる包括利益計算書に焦点を当てているが、開示情報が入手できるのは次年度以降になる。そのため、本年度は、今後、包括利益の質を検討する上で重要な追加情報を提供しうる公正価値に着目し、関連する論文を検討した。 公正価値を重視するアプローチは、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards : IFRS)の特徴であり、公正価値による測定結果として生じる評価差額(いわゆる時価評価差額)の期中変化額が、純利益や新たなボトムラインである包括利益の算定に含まれる。特に、マイナスの評価差額(評価損)は、純資産(資本)に算入されることから、自己資本比率の算定に多大な影響を及ぼす点が問題視された。具体的には、金融危機において、公正価値測定による評価損が、銀行の自己資本比率を大きく引き下げ、銀行の破綻を引き起こしたとの批判を受けた。そして、銀行を中心とするロビー活動の結果、公正価値の見直しが政治問題にまで発展した。 本年度は、公正価値会計が銀行の自己資本比率に負の影響をもたらすか、また景気循環を増幅させるのかといった課題に取り組む研究を調査した。その結果、現段階では、先行研究におけるアプローチや分析期間、分析モデルによって結果は異なり、首尾一貫した証拠は提供されていないことがわかった。しかし、公正価値情報が投資家の意思決定に役立つか否かという観点から分析を行った研究では、公正価値の開示レベルを3つ(レベル1,2,3)に分類することによって、追加的なリスク情報を取得できることや上位レベルほど価値関連性が高まることを例証している。さらに、経営者の裁量行動に着目すると、公正価値測定が経営者の裁量を反映することが明らかにされている。 このように、先行研究の結果は、レベル1からレベル3に公正価値を分類・開示した情報は、投資家の意思決定に有用であることを示している。これらの情報に起因して、包括利益情報の質が異なるかどうかも、今後、重要な検討課題となる。
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Research Products
(1 results)