2010 Fiscal Year Annual Research Report
インドの都市再編と貧困女性の社会関係資本に関する実証的研究
Project/Area Number |
22730386
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐藤 裕 一橋大学, 国際化推進室, 特任講師 (40534988)
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Keywords | 途上国都市 / 貧困 / スラム / インド / 開発主義 / NGO / ジェンダー / 社会関係資本 |
Research Abstract |
本研究はインド、アーメダバード市を対象に、都市経済やガバナンスの再編によるNGOの争点の変化とスラム内部の不平等の深化を検討した。2010年度には市当局の行政官、NGOの活動家、人権活動家などに対して聞き取りを行うとともに、スラム住民に対して当事者参加型調査を実施した。 調査の知見は次の三点に集約される。一点目は開発主義による貧困層の社会的排除である。ヒンドゥー右派のインド人民党が与党である同市では「活力あるグジャラート州」のスローガンのもと、都市再開発とスラムの強制移転が進行している。撤去民は低所得層向け公営高層住宅に移転を余儀なくされるが、都市周縁部に立地するため生業が継続できず、失業が常態化している。 二点目は、地方政治の右傾化による市民社会の「脱政治化」である。同市では複数のNGOが居住権などを争点に、ムスリムを含む貧困女性が担い手となる運動を展開してきたが、現州政権による圧力により、行政のスラム政策の補完に活動領域を転換しつつある。 三点目は、スラム内部での分極化である。経済成長を背景に社会的上昇を果たしている自営業層が存在する一方で、内職に従事する低賃金の女性労働力も増加傾向にある。彼女たちは手配師を通じて複数の企業の下請けに従事していることから、労働条件の改善に向けた組織化が困難である。 ヒンドゥー原理主義と開発主義に支えられる新しい都市政治は、階級・ジェンダー・宗派の違いをこえて貧困層を組織化してきたNGOを弱体化させている。また、新自由主義化の流れのなかでスラム住民が選択しうる生存維持戦略は行政やNGOの支援ではなく、相互扶助や就業機会獲得のためのネットワークであるが、こうした社会関係資本はカースト集団間で偏在している。 都市政治の右傾化と開発主義にともなう市民社会の弱体化や貧困層の排除は、他の途上国にも共通する課題であるが、本研究の貢献は以上を政治社会学の観点から実証したことである。
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Research Products
(2 results)