2012 Fiscal Year Annual Research Report
自由主義社会における社会的排除:資源分配・ネットワークと自由感によるアプローチ
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22730413
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
内藤 準 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (00571241)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会学 / 自由 / 社会階層 / 個人化 / ネットワーク |
Research Abstract |
平成24年度は、おもに経験的研究の面でふたつの作業をおこなった。 第一に、現代社会の動向とされる個人化現象について、全国調査データを用いた分析をおこなった。個人化とは、従前の社会で前提とされてきた家族・近隣・階級といった単位が、人びとの行為や規範や制度の基本単位としての重要性を失うことをいう。その結果、人びとの生活や制度は個人を単位として編成される。具体的には、さまざまな制度が、個人に選択肢を与えて自由に選ばせ自己責任を課すものに変化することなどで、本研究にとっても重要な動向である。そこで、1955~2010年までの全国調査データを分析することにより、日本人が自らの社会階層上の位置を報告する際に、同じ世帯の成員の性質が及ぼす影響の変化を分析した。その結果、自ら一定の個人収入を得られる人びと(男性および有職女性)において、とくに近年、自らの社会における位置を、同世帯の成員の収入とは無関係に、自分個人の収入のみに基づいて報告する傾向が急速に強まっていることが明らかになった。これは経済生活の基本単位として「世帯・家族」の主観的な重要性が弱まるという意味で個人化を示唆する結果だといえる。 第二に、本研究の独自の量的調査に着手した。調査では「災害・貧困・失業・孤立・健康」という社会的排除にかかわる重要な生活領域に関して、暮らしの安全を与える経済的資源や関係的資源をどのくらい自由に使用できるか、またその条件は何かを明らかにする。これまでの研究に基づいて、フェースシート項目、自由の自己評定指標のほか、ネットワーク変数、信頼、利他主義、責任帰属、政治意識項目などを組み込んだ調査票を作成した。東京都のある自治体で無作為に抽出した3000名を対象に、調査票と詳しい説明文の配布・回収をおこなった。理論的研究の面では、とくに社会関係的な資源を利用する自由に関して検討を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、前年度に育児休業取得のため中断していた研究の再開にあたらねばならず、またその前年度使用分を差し引いた繰り越し分のみで研究をおこなわねばならないという制約があったものの、さまざなな工夫により比較的スムーズに再開することができた。 平成24年度の最重要な作業は、本研究課題の独自の量的調査の実施であった。この調査の実施にあたっては、とくに調査対象地として予定していた東京都において知事の突然の辞職があったり国会の衆院選があるなどしたため、当初想定していた標本抽出計画の実施が一時的に危ぶまれる状況であったが、日程調整をはじめとするさまざまな努力をおこなうことにより、なんとか計画通りの調査地・標本規模で調査を実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の前半は、経験的研究の面では、前年度より実施している量的調査について、調査票の回収、データ入力、データクリーニング作業を速やかに完了させ、基礎的分析をおこなう。理論的研究の面では、経済的資源や関係的資源の分配とその使用の自由に関する研究を進める。また一貫して継続中の、自由と責任に関する社会規範の作動についての理論的考察を進める。その上で、平成25年度の前半から後半にかけて、理論的研究の成果・仮説に基づきながら、本格的なデータ分析に着手する。またそのデータから得られた知見によって理論的な研究を改善する、という作業を進めていくこととなる。成果については適切な報告機会を利用して、随時発表する。 とくに調査実施費用(郵送費、データの入力やクリーニング作業などの人件費など)として科研費の支出をおこなうほか、理論的研究のための文献資料の購入、研究成果の報告旅費などのために科研費を支出する。
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