2010 Fiscal Year Annual Research Report
トクヴィル社会理論の再構築―19世紀前半の英仏における「二重の貧困」の研究
Project/Area Number |
22730415
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高山 裕二 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (90453969)
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Keywords | 政治思想史 / 社会学理論・学説史 |
Research Abstract |
本研究は、《二重の貧困》に注目して19世紀フランスの思想家トクヴィルの社会理論を再構築することを目指すものである。初年度は、そのうち「精神的貧困」について、(1)特にトクヴィルの政治/社会理論を整理するとともに、精神医学思想の研究に着手した。 (1)前者については、トクヴィルのテクストを精読するとともに、彼の思想を同時代の文脈に位置づけ直す作業をおこなった。具体的には、彼の理論的課題がこの時代のヨーロッパの近代化/産業化に対抗して隆盛した精神運動としてのロマン主義思想と多くの類似点を持つことを明らかにした。論文「豊かさのなかの不安」は、雑誌『思想』特集<政治と情念>の一論文だが、この点を明らかにしたものである。 (2)後者については、同時代に誕生した精神医学のテクストを読解することを通じて、それは精神病を社会問題として認識する試みであったことを明らかにするとともに、精神病理学者において《病》とされた「精神的貧困」の認識もまたトクヴィルの思想と共鳴し合うことを指摘した。よって、精神的貧困がいかに分野を超えた課題であったか、そしてトクヴィルの社会理論はそのなかに位置づけられる(位置づけるべきである)ことを論証した。この成果は、社会思想史学会でのセッション報告で公表した。なお、多様な分野の研究者によって組織されたこのセッションのタイトルにもあるように、この報告は本研究のもう1つの課題でもある「精神的貧困」に対する社会的解決方法(その一つがソーシャル・キャピタルという言葉で表される社会参加のあり方)の探求に歴史的かつ実践的に取り組むものでもあった。 以上二つの思想的文脈のなかで形成されたトクヴィルの社会理論を彼の草稿類の分析を通じて再構築するという本研究の最終的な課題に取り組むため、繰越金を用いてトクヴィルの草稿(MF)を渉猟することができた。
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