2011 Fiscal Year Annual Research Report
トクヴィル社会理論の再構築―19世紀前半の英仏における「二重の貧困」の研究
Project/Area Number |
22730415
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高山 裕二 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (90453969)
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Keywords | 政治思想史 / 社会学理論・学説史 / 文化・社会意識 |
Research Abstract |
本研究は、19世紀フランスの思想家トクヴィルの社会理論を再構築することを目指した。戦後、各時代に注目された政治理論と結びつけて論じられたトクヴィルだが、彼の思想のもう1つの重要な側面として社会理論があることを、貧困問題に焦点を合わせることで明らかにした。特に本研究に独自なのは、19世紀フランスそしてどこよりも早くイギリスの産業化がもたらした「経済的貧困』とともに、トクヴィルは「精神的貧困」の脅威を指摘した点に注目したことである。本研究では、トクヴィルに独自な《二重の貧困》の認識を、この時代のヨーロッパ、特にフランスの近代化/産業化に対抗して隆盛した精神運動としてのロマン主義の思想家のそれと比較することで明らかにした。 具体的には、彼の同世代であるユゴーやバルザック、ラマルチーヌといったロマン主義作家の「精神的貧困」の描写を、文学史研究の成果を交えて整理する一方、そうした思想的文脈のなかで形成されたトクヴィルの社会理論を彼の草稿類の分析を通じて再構築した。資料的にも、未刊のテクストを含めた従来にない広範に及ぶトクヴィルの思想分析に取り組み、それを著書や学会等で公表することができた点は有意義であった。 さらに、前年度の社会思想史学会でのセッション報告を発展整理した論文「社会問題としての精神病の誕生」は、19世紀に誕生した近代社会で《精神病》という「精神的貧困」がいかに社会的に認識されるようになったかを考察したものだが、それは同時に、精神問題に対する「市民福祉」の構想の萌芽がその時代にどれほどあったかを探求する本研究のもう1つの課題に取り組むものでもあった。結果的に本研究は、トクヴィルの社会理論を草稿研究を進める形で再構築するとともに、近代化の負の側面に対処するような「市民福祉」を構想する土台を作るものとなった。
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