Research Abstract |
防衛的悲観主義(過去の似たような状況において良い成績を修めているにも関わらず,これから迎える遂行場面に対して低い期待をもつ認知的方略;以下,DP)と方略的楽観主義(過去の高いパフォーマンスに対する認知と一致した高い期待をもつ認知的方略;以下,SO)は,パフォーマンスを高める認知的方略であることが示されている(外山・市原,2008)。一方で,DP者がなぜ高いパフォーマンスを示すのか,そのメカニズムについては実はこれまで組織的に検討されていない。しかし,1つの可能性として考えられるのが,Norem(2001)も指摘している"熟考"が果たす役割である。 そこで本年度は,昨年度作成した認知的方略尺度を用いて,防衛的悲観主義が高いパフォーマンスを示すメカニズム-より具体的には,防衛的悲観主義の構成概念である熟考(計画に対する熟考,失敗に対する熟考,成功に対する熟考)がどのようにしてパフォーマンスに影響を及ぼすのか,そのメカニズム-を検討した。その結果,遂行場面を迎えるにあたってあれこれと対応策を練るといった計画に対する熟考を行うことが,積極的な学習方略につながり,そうした学習方略を媒介として高い学業成績を修めることが明らかとなった。また,これから迎える遂行場面における成功について熟考するということが,テスト前の不安を和らげ,それが適応的な学習方略を促し,その結果,高いパフォーマンスを修めるという一連のプロセスが確認された。一方で,失敗に対する熟考はテスト前の不安を高め,それが不適応的な学習方略につながり,結果,低いパフォーマンスに結びつきやすいことも示された。 上記で示した研究の他に,本年度は,楽観主義の宿報処理メカニズムを探るべき実験を行ったが,こちらは予想した結果が得られなかったため,来年度引き続き,実験の方法を改良して検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りの調査(楽観主義者と悲観主義者が自己への評価に対して,ポジティブ/ネガティブに偏っているのかどうかを統制的処理過程(意識的処理過程)レベルで検討した調査),実験(楽観主義者と悲観主義者の情報処理過程がポジティブ/ネガティブに偏っているのかどうかを自動的処理過程(無意識的処理過程)レベルで検討した実験)を行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
実験においては予想した結果が得られなかったため,来年度引き続き,実験の方法を改良して検討する予定である。より具体的には,今年度における実験(楽観主義者と悲観主義者の情報処理過程がポジティブ/ネガティブに偏っているのかどうかを自動的処理過程(無意識的処理過程)レベルで検討した実験)では,ストループ課題を用いたのだが,その際,色命名(音声)反応によるものではなく,キー押し反応を用いたために,予想した結果が得られなかった可能性が考えられた。そこで来年度においては,ストループ課題において色命名(音声)反応を用いて再度検討するとともに,注意の切り替えと定位ならびに注意の解放の困難さを測定できるとされているgap-overlap課題を用いて検討することで,楽観主義者および悲観主義者の注意バイアスについてより詳細に検討することにする。
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