Research Abstract |
音読は,聴解(話し言葉の理解)と読解(書き言葉の理解)の中間に位置する。本研究は聴解から読解への橋渡しする音読の役割を明らかにすることで,言語理解の発達プロセスについて,基礎的知見を提供することを目的とする。この目的を達成するために,読解時の眼球運動を測定して,通常では観察できない黙読時の心的活動を眼球運動という行動指標から分析を行う。本年度は,発達のゴール段階に位置する成人を対象に,音読・黙読時の眼球運動を測定する実験室実験を行った。 実験1では,成人12名を対象に22字程度の再解釈の必要なガーデンパス文を音読もしくは黙読させ,文の理解度と読解中の眼球運動を比較した。その結果,黙読と音読での文の理解度には差がないことが明らかとなった。一方,読解中の眼球運動を分析したところ,黙読では音読よりも読解に費やす時間が短く,それにも関らず読み戻りの回数が黙読において多いことが明らかとなった。ただし,文中での注視回数や移動速度については,読み方による差が生起しなかった。この原因として,読解刺激が22字程度の文であったために,差が出にくかったことが考えられた。 そこで実験2では,文字数が270字程度の小説やエッセイ,童話を成人12名に音読または黙読させ,これらの理解度と読解中の眼球運動を測定した。その結果,音読後と黙読後の文章の理解度には実験1と同様に差がなかったが,黙読のほうが音読よりも1つの文章を読むのに費やす時間が短いにもかかわらず,読解中の停留回数と読み戻り回数が多く,眼球の移動速度が速いことが示された。 2つの実験から,成人の音読と黙読の読解活動においては,読解内容の理解度には差はないが,黙読では音読よりも読解時間が短く,さらに停留や読み戻りを多く行なうとの違いがあることが明らかとなった。読解活動に熟達した成人では,時間効率がよく読み戻りや停留など理解を補償する方略を利用しやすい黙読を使用することが考えられた。 本年度の成果をもとに,次年度以降,読解活動の個人差を詳細に分析するとともに,児童の音読と黙読での読解活動の様相と比較し,発達に即したモデルを提案することが課題である。
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