2012 Fiscal Year Annual Research Report
教室における規範逸脱行動に対する個人要因および状況要因の影響
Project/Area Number |
22730508
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
出口 拓彦 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (90382465)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 教育心理学 |
Research Abstract |
大学生および中学生を対象として,規範逸脱行動に関する質問紙調査を行った。さらに,ダイナミック社会的インパクト理論(DSIT; Latane et al., 1994)を基に,ゲーム理論(e.g. Axelrod, 1984)における利得行列(自己と他者における行動の組み合わせによる利得を示したもの)を組み合わせたコンピュータ・シミュレーションを行った。規範逸脱行動については,授業と無関係の私語,授業に関する私語等について扱った。そして,「自分も周囲も遵守(R)」「自分は遵守,周囲は逸脱(S)」「自分は逸脱,周囲は遵守(T)」「自分も周囲も逸脱(P)」という4つの状況に関する満足度等(利得行列)をシミュレーションに入力し,逸脱行動の頻度等を算出した。 その結果,「遵守の生徒数」「遵守と逸脱の差」と「逸脱行動の頻度」の間に,有意ないし有意傾向の負の相関がいくつか示された。しかし,「逸脱の生徒数」と「逸脱行動の頻度」の間には,「内職」を除いて,顕著な関連は示されなかった。このことから,「学級内に『遵守』の生徒が何人いるのか」「学級では,『遵守』の生徒と,『逸脱』の生徒とでは,どちらの生徒が多いのか(多数派なのか)」ということが,逸脱行動を規定していると考えられた。さらに,シミュレーションによって出力された規範逸脱行動の頻度と,質問紙調査によって測定された逸脱行動の頻度の一部には,正の相関が示された。また,利得行列の種類によって,逸脱行動の頻度や適応感が異なるだけでなく,逸脱行動の頻度と適応感の関連も異なる可能性も示された。このことから,シミュレーションのモデルは,一定の妥当性を有することが示唆された。 この他に,教員の「机間巡視」が逸脱行動に及ぼす影響についても検討するため,DSITの累積的影響モデルを援用した基礎的な研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,大学生のみならず中学生についても質問紙調査を実施し,得られたデータを用いてシミュレーションを行った。質問紙調査によるデータを分析した結果,大学生のみならず,中学生においても,利得行列によって規範逸脱行動の頻度が異なる可能性が示された。なお,中学生を対象にした測定については,複数の学年・学級から質問紙調査に対する協力を得ることができた。このため,「個人単位」の分析のみならず,学級を単位とした「集団単位」の分析を行うことも可能となった。集団単位の分析の結果,シミュレーションによって出力された規範逸脱行動の頻度と,質問紙調査によって測定された逸脱行動の頻度の一部には,正の相関が示された。このように,質問紙調査によるデータの分析結果は,シミュレーションに用いられているモデルの妥当性を支持するものとなっている。本研究では,①質問紙による測定結果,②コンピュータのみを用いたシミュレーションによる出力結果,③質問紙によるデータを基にしたシミュレーションによる出力結果,という3種類のデータが得られるが,これらの間に特に矛盾した分析結果は示されていない。したがって,これまでのところ,本研究で用いている理論的な枠組みに大きな修正を行う必要性は生じていない。 昨年度までの研究結果は,教育実践開発研究センター研究紀要の他,日本心理学会等の学会において発表した。さらに,日本教育心理学会の自主シンポジウムにおいても,これまでの研究結果を基に話題提供を行った。また,今年度も,ヨーロッパ心理学会(発表受付済み)や日本教育心理学会等で発表する予定である。 以上のように,データの測定や分析は順調に進んでおり,研究の理論的枠組みに大きな問題は見つかっていない。また,研究結果も定期的に発表されている。このことから,本研究課題の当初研究目的の達成に向けて,おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでの研究結果をふまえて,大学生や生徒の教室における規範逸脱行動について,質問紙調査やコンピュータ・シミュレーションによるデータを基に考察する。シミュレーションについては,使用しているモデルに関しては,これまでのところ特に大きな問題は生じていないため,これまでのものをベースとして,さらに発展させていく予定である。 さらに,これまでの研究から得られた知見を基に,「規範逸脱行動に関する授業」を作成・実施し,その効果についても検討する。具体的には,開発中のシミュレーション・プログラム等を用いて,1人1人の態度や行動が,他者や集団にどのような影響を及ぼすのかについて説明する。シミュレーション・プログラムは,個々人が相互に影響を与えるプロセスを視覚化できるように作成されているため,規範逸脱行動の発生過程に対する理解を促進させることが可能となると考えられる。また,なぜ規範逸脱行動を行うのかについて,個々人の「適応」という観点にも着目して解説していく予定である。 このように,質問紙調査,シミュレーション,授業の作成などを通して,規範逸脱行動の抑制策について検討するとともに,教室以外の規範逸脱行動に対する研究結果の一般化可能性について考察する。また,研究成果については,ヨーロッパ心理学会や日本教育心理学会等で発表する予定である。 いまのところ,研究計画を大幅に変更する必要性や,研究を遂行する上での大きな問題は生じていない。ただし,これまで研究の遂行に用いてきたパソコンの一部には,そのOSが古くなってきているものもでている。円滑な研究遂行のために,徐々に新しいOSに移行する必要があると考えられる。
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