Research Abstract |
面接法により高齢者のライフヒストリーを聴取するなかで,調査者による質問やそれに対する調査対象者の応答とは明示的には関連せずに,不随意に生じた回想を収集した。その結果,調査対象者自身も予測,意図せざる回想が発生していた。この結果からは,面接調査という人為的な手続きによって生じた意図的な回想が,無意図的に不随意な回想を引き起こしている可能性が示唆された。次に,面接場面を離れた日常生活場面における不随意な回想を,調査対象者に日誌に記録してもらって収集した。その結果,不随意な回想が生じやすい場面や,その回想の内容の傾向が明らかとなった。回想の記録頻度は,特に面接調査後の1週間は,他の時期に比べて高かった。それらの回想時の状況は,通い慣れた道を歩いたり,庭の草取りをしているときなど,日常のルーティン活動中が多い。そして,面接調査後の一週間,回想の対象となった時期は,幼児期から成人期に至る長期間であった。こうした傾向は面接調査からの時間経過とともに薄らぎ,回想の記録頻度は低くなり,回想の対象となった時期は回想している現在に近づいていった。以上の結果から,面接調査が面接調査中に引き起こす不随意的な回想,面接調査の施行後の不随意的な回想の性質について,探索された。今後,こうした性質の一般化可能性を探るべく,より多くの調査対象者から回想を収集する必要があり,本報告時現在,鋭意その収集に努めている。なお,本研究の暫定的結果からは,面接調査が調査対象者に与える事後的影響についてもうかがい知ることができた。本研究の直接的な主題である日常生活上の不随意的回想とは異なるが,面接の目的が調査にあるにせよ,あるいは臨床にあるにせよ,面接は否応なしに日常生活に影響を与える。こうした面接法が与え得る日常生活上の影響についても,本研究の結果は示唆に富む。
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