Research Abstract |
本研究では,教師の認知メカニズムを解明するため,教師が直面する葛藤場面に着目し,葛藤状態が解消される認知メカニズムを分析した。25時間にわたる数学の授業場面を対象とし,教師の発問や説明に対して,生徒からの同意が得られない場面を葛藤場面として位置づけ,その際の教師の即興的対応と後続する別クラスでの対応のパターンをそれぞれ抽出した。その結果,葛藤場面の種類として(1)誤答,(2)不十分な回答,(3)指示要求,(4)概念誤解,(5)意図誤解が抽出された。また,即興的対応として(1)説明追加や原因説明などが,後続クラスへの対応として,先行説明追加や質問方法変更などが抽出された。 教師の実践的知識は,授業を省察する中で発達していく点を考慮し,上記の葛藤場面とそれぞれの対応との関連を分析した。その結果,生起した葛藤を解消するため,即興的には説明や質問を追加する形で対応するが,後続するクラスでは,同種の葛藤が生起しないよう質問方法を変更することや先行する説明を追加するなどの措置がとられることが多いことが明らかになった。 以上の結果から,教師の実践的知識の学習についてのプロセスは,次の通りとなる。まず教師は授業内で同意を得るような発言を行う。そして生徒からの同意を得られない場面が生じた場合に,それを解消するような即興的な対応を行う。さらに後続するクラスでは同様の事態が生じないように授業計画が修正される。これらの相互作用的,構成的な活動が日々繰り返されることにより,教師の実践的知識は豊かなものになっていくのである。 本研究では,連続する別クラスの授業内容を分析の対象とするという,これまでにあまり扱われることがなかった手法を取り入れることで,教師の実践的知識の発達プロセスを明らかにした点で意義深いものになるといえるだろう。
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