2012 Fiscal Year Annual Research Report
幼児期における環境教育が子どもの心身の発達に与える影響
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22730526
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Research Institution | Minami Kyusyu University |
Principal Investigator |
磯部 美良 南九州大学, 人間発達学部, 講師 (60528339)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | S-HTP法 / 環境教育 / 幼児 |
Research Abstract |
今年度は、今後の調査で比較を行うための基礎データとして、一般的な保育園において遊びの様子などの5つの指標データを収集した。加えて、環境教育(自然を活かした保育)の実践園において、幼児の心象風景を調べるための描画法としてS-HTP法を用いた調査を実施し、先の一般的な園の子どもの心象風景と比較した。 調査対象は、環境教育実践園(以下、実践園)は年長児5名、一般園は年長児15名であった。3月の時点での主な違いは、①基底線の有無:実践園では、全幼児がはっきりとした基底線を描き、人の足が地面に接していたのに対し、一般園の幼児では、基底線を描いた者は2名、ギザギザの草状の地面が6名、用紙を基底線として用いた者は4名、これらの内、人が宙に浮いている者は9名だった。②人物の数:実践園の幼児は5名中4名が、人物(家族・友達)を3名以上描いていた。一般園の幼児は、一人だけ描いた者が8名、二人描いた者が7名であった。③手足の有無:実践園の幼児は、全ての子どもがグローブのようにはっきりとした手と腕、つま先まである足を描いていた。一般園の幼児は、指先まで書いた者は2名にとどまり、線だけの足を描いた者も6名にのぼった。この他、実践園の幼児は人と家、木、自然物(太陽、雲、鳥、虫)をはっきりとした線で描いていたのに対し、一般園の幼児は、抽象的な物体(ハートなどの幾何学模様、顔だけの動物)を羅列的に配置する者が多く、線も不明瞭なものが多かった。 調査対象園が少ないため、断定的なことは言えないが、これら2つの園の幼児が描いた絵の違いは明白で、環境が子どもの心象風景に与える影響は極めて大きいと考えざるを得ない。当初、S-HTP法に関しては、自然物の有無を中心として、環境教育の影響を検討するつもりであったが、子どもの精神的安定度や外界の認識のあり方など、さまざまな側面を調べることに有効であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の今年度の実施計画では、自然とのふれあいを重視した環境保育を実践する園、環境保全活動に重点をおいた環境保育を実施する園、一般的な園のそれぞれから1~2園ずつを選定し、それらを社会性、遊びの様子、健康状態、身体能力、心象風景の5つの観点から比較する計画であった。しかし、実際には自然とのふれあいを重視した環境保育を実施する園1箇所と、一般的な園1箇所の計2箇所の園比較にとどまった。また、一般的な園については、今後の比較のための基礎データを収集する目的で、すべての指標についてデータを収集するとともに、心象風景を調べるSーHTP法については、年間で4回実施したが、自然とのふれあいを重視した園については、心象風景に関するデータのみの収集しか行えなかった。その意味では、計画通りに調査が進捗しているとは言えない。しかしながら、本来は、心象風景を調べるために取り入れたS-HTP法が、子どもの心身の発達のさまざまな側面を予想以上にとらえることができる可能性を見いだすことができ、このことは、今後の研究の発展のために、極めて大きな収穫であった。実際のところ、子どもの遊びの様子、社会性、身体的能力、健康の4つの指標は、非常に時間も労力もかかるわりには、予想の範囲内の知見しか得られない可能性が高い。したがって、今後は、S-HTP法を中心に、複数の園のデータを収集することで、本研究課題の目的を追究していきたいと考えている。 また、上記の調査のように客観的なデータの収集は行ってはいないが、今年度は多くの保育園を訪問し、環境保育の実態や課題を知ることができた。これら今年度得られた知見を総合することで、来年度はより一層、現場の現状やニーズにあった調査の実施につなげることができると考え、今年度の調査は「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
①今後は、調査対象の保育園・幼稚園の数を増やして、調査を実施していきたい。過去3年間で実施してきた県内外の園の実態調査の結果、環境教育(主に、自然を活かした保育)を実践している園がいくつかピックアップできたので、それらの園に依頼して、通常の園との比較を行っていく予定である。 ②今後の調査では、S-HTP法を中心として、園の比較研究を行っていきたい。昨年度は、子どもの遊びの様子、社会性、身体的能力、健康といった指標も用いてきた。しかし、そもそも子どもの心象風景をみることだけを目的として取り入れたS-HTP法であったが、精神の安定度やエネルギー水準など、予想以上の範囲でもって、子どもの心身の発達をみることができる可能性が出てきた。しかも、他の指標に比べて、調査の実施も簡易であり、今後、複数の園において調査を実施するとなれば、調査方法として極めて有用であると思われる。したがって、今後は、S-HTP法を中心とした調査を実施し、その有効性を確認しつつ、園の比較調査研究を行っていきたいと考えている。 ③環境教育を実施している園の子ども達とかかわるうちに、彼らの人的・物的環境の認識のあり方や観察力、好奇心の強さといった点でも抜きん出た面があるのがうかがえた。こうした側面を捉えることができるような指標、および実験方法についても、考案していきたいと考えている。
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Research Products
(4 results)