Research Abstract |
近年,海外においては,問題行動を示す幼児は,社会的スキルの知識はあるものの,それを実行することができないという実行欠如の問題が指摘され,その要因として,不適切な行動の抑制や,思考を切り替える柔軟性及び情報処理に関わるワーキングメモリなどの実行機能の不全が挙げられている(Barkley:2000)。先行研究では,実行機能と社会的スキル及び問題行動とのそれぞれの相関関係が検討されているものの,問題行動の生起プロセスに関する研究は行われていない。本研究では,社会的スキルと実行機能が関わって問題行動が生起するというプロセスを明らかにすることが目的である。 平成22年度は,社会的スキルと問題行動,及び実行機能との関連を検討した。月齢と性別を統制した偏相関係数を算出した結果,社会的スキルとの関連では,認知的柔軟性課題と協調スキル,働きかけスキルに関連が認められた。これにより葛藤を抑制したり柔軟な思考を持っている幼児は,仲間に働きかけたり遊びを維持したりするスキルが高い可能性が示された。また,自己コントロールスキルとワーキングメモリの関連から,自己と他者の複数の情報を保持し操作できる幼児は,仲間との葛藤場面で気持ちをコントロールできる可能性が示された。一方,問題行動との関連では,認知的柔軟性課題と不安・引っ込み思案行動,ワーキングメモリと攻撃妨害行動に関連が認められた。 平成23年度は,実行機能が社会的スキル及び問題行動に及ぼす影響を検討した。重回帰分析の結果,実行機能のなかでも抑制制御機能は,社会的スキルの実行に影響を及ぼし,ワーキングメモリは問題行動の生起に影響を及ぼす可能性が示唆された。問題行動領域の攻撃行動及び不注意行動においては,どちらも実行機能のすべての側面が影響を及ぼしていることから,実行機能の発達は,問題行動の低減に寄与する可能性が示唆された。
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