2011 Fiscal Year Annual Research Report
脳波の位相同期性解析およびグラフ理論解析を用いた視覚的注意の評価手法の開発
Project/Area Number |
22730596
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
武田 裕司 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 主任研究員 (10357410)
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Keywords | 脳波 / 位相同期 / グラフ理論 / 認知 / 注意 / ニューラルマスモデル |
Research Abstract |
本研究の目的は、脳波の位相同期性解析を用いて、注意の制御様式を評価する手法を確立することである。本研究課題開始前に実施した視覚探索課題においては、高γ帯域=受動的注意制御、低γ帯域=能動的注意制御の仮説を支持する結果が得られていた。また、昨年度実施したストップシグナル課題、注意の瞬き課題においても仮説を支持する結果が得られた。その一方で、先行手がかり課題においては仮説と一致しない結果が得られていた。そこで、本年度は位相同期周波数の決定メカニズムを詳細に検討するために、錐体ニューロン,興奮性介在ニューロン,およびインパルス応答特性の異なる2種類の抑制性介在ニューロンから構成されたニューラルマスモデルを用いたシミュレーション研究を実施した。25Hz近傍に中心周波数をもつ2つの細胞群をシミュレートし、細胞群間の位相同期性をPhase-locking Value(PLV)によって評価した。その結果、細胞群を一方向的に結合した場合には高γ帯域のPLVが高く,双方向的に結合した場合には低γ帯域のPLVが高いことが明らかになった。この結果は,高γ帯域の同期性は一方向の情報伝達・非再帰的処理を,低γ帯域の同期性は双方向の情報伝達・再帰的な処理を反映することを示唆している。一方、3つ以上の細胞群を結合した場合には、必ずしも脳部位間の機能的結合強度とPLVとの間に安定した関係性が得られなかった。このことは、3つ以上の部位が相互関係をもつことが想定される課題ではPLVによる注意制御様式の評価が難しく(例えば、先行手がかり課題では、前頭、頭頂、上丘など、3つ以上の相互作用が想定される)、新たな指標の開発が必要であることを示している。これらの成果の一部はBiological Cybernetics誌に掲載された。また、本年度はフランカー課題など注意制御に深く関わっている認知課題を用いて、更なる実験データの蓄積を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
注意の制御様式と位相同期性の関係は本研究課題開始時に想定していたよりも複雑であることが明らかになったものの、ニューラルマスモデル等の導入によって解決の方向性が示されている。このことから、目的の達成に向けて概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
能動的な注意が必要とされる認知課題遂行中の脳活動について実験データの更なる蓄積を行うとともに、ニューラルマスモデルによるシミュレーションを併用して、新しい指標の開発を行う。具体的には、多変量自己回帰分析など、時間遅れに対して一定の許容をもつ解析手法を取り入れることで、3部位以上の間の位相同期性を適切に評価する新しい手法の開発を目指すとともに、その指標をグラフ理論解析に拡張する。
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