2010 Fiscal Year Annual Research Report
「現実‐潜在」関係に関する思想史的研究―ホリスティックな知の再検討
Project/Area Number |
22730616
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野 文生 京都大学, 教育学研究科, 助教 (50437175)
|
Keywords | 現実性 / 潜在性 / ユダヤ思想 / 世紀転換期 / 様相 / ブーバー / ゲシュタルト / 聖書 |
Research Abstract |
本研究は、「現実-潜在」関係という視角から近代教育思想を再検討するというテーマ設定のもと、(1)ユダヤ思想、(2)世紀転換期の「科学と神秘」思想、(3)様相論の思想的系譜という3つの研究軸から新たな「現実-潜在」関係についての理解を提供すると同時に、それらをホリスティックな知の掘り起こし作業に接続しつつ近代教育学の陥穽の克服に寄与するような一定の視座を提供する試みである。本年度は、とりわけ(1)「ユダヤ思想」と(2)「世紀転換期の思想」に重点を置いて研究を遂行した。(1)については、ブーバーのDiaiogの哲学を取り上げ、その「現実化」概念、「潜勢力」の思想に着目しながら、全体的でホリスティックな認識の分析にあてた。併せて、ドゥルーズやアガンベンなど現代思想における「潜勢力」の思想に関する文献の読解を進め、「現実-潜在」思想の現代的展開を追うことに努めた。また、ドイツ・ブーバー学会(教育学部会)(ヘッペンハイム)に参加し、ブーバー研究の国際的動向を把握することができた。また、レヴィナス『困難な自由』をめぐる国際学術会議(トールーズ)に参加することで、レヴィナス哲学における「顕れるものと顕れえぬもの」をめぐる思想の今日的到達点を測定し、かつ国際的論議の動向をリサーチすることができた。これは、次年度以降の研究を方向づける予備的作業として大きな意味をもった。(2)に関しては、世紀転換期の精密科学や実験心理学の興隆のさなかにゲシュタルト心理学が登場してくる背景を探りながら、反-要素還元主義の認識理論の系譜を追うべく文献調査を行った。さらに、(1)と(2)の総合的研究視座として、ブーバーの聖書解釈の思想におけるゲシュタルト的認識の重要性を発見し、「宗教と科学」の両者をつらぬく大きな思潮としてゲシュタルト的な「全体」の把握という課題がどのように理解され、また展開したかを明らかにした。萌芽的成果の一部を、同志社大学一神教学際研究センター主催シンポジウム、京都ユダヤ思想学会、教育思想史学会などで発表した。
|