2011 Fiscal Year Annual Research Report
「現実-潜在」関係に関する思想史的研究―ホリスティックな知の再検討
Project/Area Number |
22730616
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野 文生 京都大学, 教育学研究科, 特定助教 (50437175)
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Keywords | 現実 / 潜在 / ユダヤ思想 / ブーバー / 世紀転換期 / 様相 / 西田幾太郎 / レヴィナス |
Research Abstract |
本研究は、(1)ユダヤ思想、(2)世紀転換期の「科学と神秘」思想、(3)様相論の思想的系譜という3つの研究対象の軸を作り、「現実-潜在」関係を思想史的観点から再検討するという課題をもっている。本年度もこの全体構想に従い、(1)に関しては、フランス・パリで開催されたレヴィナス『全体性と無限』刊行50周年記念国際学術会議(Totalite et Infini, une oeuvre de ruptures ; Colloque International)に参加し、レヴィナス研究の動向をリサーチするとともに、関連研究文献・資料の収集をおこなった。また同様の趣旨のもと、ストラスブール大学のG・ベンスーサン教授を招聘して講演会「レヴィナスの作品におけるナアセー・ヴェニシュマー」と共同討議(合田正人氏・杉村靖彦氏・西山達也氏)をおこない、さらにレヴィナス『全体性と無限』刊行50周年記念シンポジウム「レヴィナス哲学とyユダヤ思想」(京都ユダヤ思想学会)を本科研と共同で開催し、70名を超える参加者を得て、ユダヤ思想の観点からレヴィナスに切り込む多様なパースペクティヴの在りようについて議論をすることができた。(2)に関しては、世紀転換期の思想が京都学派においてどのように受容され、どのような展開を見せていたかという視点を導入することで、(2)世紀転換期の「科学と神秘」思想の同時代的展開と(3)様相論的思想の視点を交叉させつつ研究することができた。とりわけ、ブーバーとベンヤミンの対立をメシアニズムの時間、神秘主義、弁証法という観点から考究すべく、西田幾多郎と彼への批判言説という同時代的現象を参照軸として分析した。西田など京都学派の思想における「形なきものの形」の諸相を微細に読み解くとともに、ブーバーにおけるゲシュタルト認識への強い問題関心、特有の弁証法的契機、「境界のラディカリズム」という思想原理をある程度明らかにすることができた。いずれも、成果の一端を京都ユダヤ思想学会、西田哲学会ほかで公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全計画の2年目にあたる本年は、国際学会への参加や海外研究調査、ゲストを招聘してのシンポジウムなどをとおして当該研究対象をめぐる研究状況を広くサーヴェイし、他の研究者と意見交換すると同時に、関連文献の収集や分析をおこなうことに力を注いだ。萌芽的な成果の一部を公表できたことに加え、それぞれの軸において新しい知見や今後の方向性への示唆をえられたことは、次年度以降の作業の準備として有益であった。また、自分の中でさまざまにアイデアの拡散と収束がくりかえされており、主観的に判断すればこれは「よい状態」である。
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Strategy for Future Research Activity |
大幅な研究計画の変更の必要性はない。来年度以降も同様に3つの軸に即して研究を推進する予定である。ただし、3つの軸をいかに交差させるかという点において、いくつかの参照軸となるものを明確化していきたいと考えている。
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