2010 Fiscal Year Annual Research Report
リテラシー教育における機能的側面と批判的側面に関する総合的研究
Project/Area Number |
22730617
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
樋口 とみ子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (80402981)
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Keywords | リテラシー / 学力論 / リテラシー |
Research Abstract |
本研究では、学校教育において育成すべき学力のあり方について、近年、社会的な関心を集めているリテラシー概念に焦点をあてて考察することをめざしている。とりわけ今年度は、リテラシーの機能的側面(既存社会への効果的な適応)と批判的側面(既存社会の変革)の統合のされ方について、歴史的な視点をもとに検討を進めることをめざした。 具体的には、OECDの国際比較調査PISAが依拠する機能的リテラシー論として、1950年代のアメリカ合衆国で活躍したW.S.グレイの主張を取り上げた。グレイは人々の実際の日常生活におけるパフォーマンスに着目して「成熟した読み」の内実をとらえようとしていた。その調査結果はこれまであまり注目されてこなかったもののグレイのリテラシー論の内実に迫る上で重要な意味をもつため、彼が行ったリテラシーの習熟度に関する調査研究を検討の対象とした。その結果、グレイの主張においては、リテラシーの機能的側面のみならず、批判的側面の重要性も指摘されていることが明らかになった。ただし、その際、個人の内面における意欲や態度が重視されることにより、社会構造を批判的に問いなおすという視点は弱くなってしまうことも浮き彫りとなった。こうした研究結果は、従来の機能的リテラシー論に関する理解に対して、その課題をより鮮明にすることができるものと考えられる。 機能的リテラシー論の課題については、さらに1960~70年代以降の展開も探る必要があるため、ユネスコや国連開発計画の実施した実験的世界リテラシー計画などに関する検討を進めた。また、歴史的な視点に加えて、現代的な比較の視点として、1980年代以降のイギリスで登場している「状況に根ざしたリテラシー」論についても、その意義と課題に関する検討を行った。
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