2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22730630
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
櫻井 歓 日本大学, 芸術学部, 准教授 (60409000)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 西田幾多郎 / 人間形成論 / 木村敏 / 行為的直観 / 暗黙知 / 教職の専門性 / ドナルド・ショーン / マイケル・ポランニー |
Research Abstract |
本研究は、西田幾多郎のテクストを人間諸科学との比較思想的な検討を重視しつつ人間形成論として読解し、教育学の分野から新たなコンテクスト設定を試みるものである。4年計画の3年目に当たる平成24年度の研究実績を各論的に示せば以下の通りである。 1.過年度に行われた教育思想史学会第21回大会(2011年9月)のコロキウム「教育学的「自律」概念の再検討」において発表した研究「「おのずから」より「みずから」へ――木村敏と西田幾多郎を介しての「自立/自律」概念の再検討――」の概要が、同コロキウムの報告論文(共同論文)の一部として『近代教育フォーラム』第21号(2012年10月)に掲載された。本研究は、精神医学者・木村敏における西田哲学の受容に着目しながら両者を人間形成論として読解する研究であり、「おのずから」と「みずから」という日本語の概念対により「自立/自律」という西洋近代的概念を捉え直したところに、その意義・重要性を持つものと考えられる。 2.日本教育学会第71回大会(2012年8月)において、「行為的直観と暗黙知――教職の専門性への西田哲学的アプローチ――」との題目で発表を行った。本研究は、教職の専門性を構成する教師の実践知について西田哲学からのアプローチを試みたものである。具体的には、西田の後期思想で知識論の中心概念となった「行為的直観」と、「反省的実践家」論で著名なドナルド・ショーンが「行為の中の知(knowing-in-action)」を論じるなかで参照しているマイケル・ポランニーの「暗黙知(tacit knowing)」の概念との共通性に着目することにより、西田哲学と教職専門性論とを架橋することが可能であることを論じた。抽象度の高い西田の概念が、教職の専門性という教育学のアクチュアルなテーマと結びつく可能性を示したところに、本研究の意義と重要性が存するものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の基礎的作業にあたる『西田幾多郎全集』のテクストの電子データ化が遅れていること、前年度に行った学会発表に基づいて執筆した研究論文(発表内容への加筆・修正)を学会誌に投稿したところ掲載に至らなかったこと等の理由により、「やや遅れている」と自己評価せざるをえない。その他の点も含めて各論的に示せば以下の通りである。 1.新版『西田幾多郎全集』全24巻の電子データ化は、スキャナーからパソコンへのデータ転送速度が遅いことが障害となり、作業に時間がかかっている。一部、前年度に購入したオートドキュメントフィーダ(ADF)を活用して電子データ化を行ったが、冊子体の書籍のページを一旦コピーしてからADFにかけるため、作業の圧倒的な効率化には必ずしもつながっていない。現在は、冊子体の書籍を見開き2ページずつ丁寧にスキャナーに読み取らせる作業が中心となっている。 2.過年度の学会発表「「おのずから」より「みずから」へ」については、その概要がコロキウム報告論文の一部として学会誌に掲載されたが、当初の発表内容への加筆・修正を行い内容を発展させた研究論文を別の学会誌に投稿したところ、査読の結果不掲載となった。同論文については、さらに加筆・修正を行ったうえで何らかの発表媒体に掲載される形で発表したいと考えているが、現時点では未発表にとどまっている。 3.本年度の学会発表「行為的直観と暗黙知」についても、早々に加筆・修正を行い、400字×50枚規模の研究論文に仕上げて学会誌に投稿すべきであると考えているが、現時点では実現していない。 4.本年度は、西田の同時代的状況(歴史的コンテクスト)に関して国内での資料調査を2件行った。「西田幾多郎の書」に関する石川県での調査(2012年4月)、および西田が講演を行った信濃哲学会に関する資料調査(2013年2月)であるが、研究成果を発表する段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
進展が遅れているテクストの電子データ化については、本年度末に比較的まとまった作業時間を確保できたため、年度末の時点で『西田幾多郎全集』全24巻のうち15巻分の電子データ化を終えることができた。平成25年度には、日常的に少しずつ作業時間を確保し、一部にADFも活用しながら効率的に作業を進めていきたい。おおむね年度の前半を目途として全24巻の電子データ化を完了させる予定である。 過年度に学会発表を行った研究で学術雑誌(他学会の学会誌)への掲載に至らなかった論文(「「おのずから」より「みずから」へ」)については、再度内容を修正した上で、さらに別の学会誌への投稿、もしくは別の学会での発表を経ての学会誌への投稿を考えている。また、本年度に学会発表を行った研究(「行為的直観と暗黙知」)については、これをもとにできる限り早期に研究論文を作成し、学会誌への投稿を実現させたい。いずれについても、小まめに執筆時間を確保しながら研究を進め、積極的に研究成果を公表していくことに努めていきたい。 西田幾多郎に関わる歴史的コンテクストを解明するための国内資料調査は、大きく二つの系列において進めていく。一つは、西田の手によると伝えられる書画に関する石川県での調査であり、いま一つは、西田が講演を行った信濃哲学会に関する長野県での調査である。本年度、両県で行った訪問調査で研究の手がかりが掴めたので、平成25年度は両県での再調査を行い、それをもとになるべく早期に研究成果をまとめ学会発表を実現させたい。
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Research Products
(2 results)