Research Abstract |
本研究の目的は,中等学校数学科における創造的・問題解決的な授業の具体を開発するとともに,問題理解の場面における教師の役割についてより詳細に検討することである。本年度では,現役の中学校,高等学校数学科教員への聞き取り調査や,種々の学力調査の分析を行い,その結果から,高等学校数学I「正弦定理」と中学校第2学年「変化の割合」に焦点を当てて研究を進めることにした。主要な知見は以下の2点である。 1.高等学校数学I「正弦定理」の導入に関し,定理を紹介・提示し,証明を考えるという授業展開と,定理自体を見いだす活動を行った授業展開とを比較した結果,それらの授業を通して正弦定理を学習した各グループの授業後の自己評価に明示的な差は見られなかったものの,1ヶ月後の保持テストにおいては明示的な差が見られることが分かった。定理自体を見いだす活動を取り入れたグループでは,36.1%の生徒が適切な証明を再現できたのに対し,定理を紹介・提示された後に,証明を考えたグループでは10.0%の割合であった。これは,χ^2検定の結果,1%水準で有意である(χ^2=7.439,df=1)。 2.中学校第2学年「変化の割合」について,現在,中学校で使用されている教科書(平成17年検定,6社7種)を分析した結果,「変化の割合」の導入に関し,全ての教科書でほぼ同一の記述がなされており,ある特定の(1つの)一次関数の表について,xの値が変化したときのyの増加量を調べるという活動から始められていることが分かった。しかしながら,そのような場面設定では一次関数の変化の割合を調べる必然性や意義を感じることができず,結果として変化の割合の理解を困難にしていることが予想される。それゆえ,一次関数の変化の割合を調べる必然性を持たせる一つの場面として,2つの一次関数の変化の様子を比較するという場面を仮説的に設定し,その効果を調べるための調査計画を立案した。
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