Research Abstract |
本年度は,研究課題の第1の目的である問題解決経験が知的障害児のプランニングの変化に及ぼす影響を明らかにするために,実験手続きに関する予備的な調査を行った.調査課題は,見立て造形を採りあげた.これは,子どもが石や木切れを拾い集め,それらを人の顔のように配置して,お父さんの顔と名付けるような行為を指す.このように素材を見立てて,それを表現する行為は図画・工作,美術といった造形教育全般で重要視され,数多くの実践が示されている.また,その活動過程は,構造化されていない問題と捉えることができ,日常的問題解決のプロセスに類似する部分が多いと考えられる.調査では,知的障害児の見立て造形活動の特徴を非知的障害児との比較を通して明らかにすることを目的とした.対象児とした知的障害児は特別支援学校に在籍する生徒計21名(平均精神年齢:8歳6ヶ月,平均生活年齢:14歳9ヶ月)であった.非知的障害児は,幼稚園の年長児29名と小学校3年生29名であった.課題は「面白い絵」をシールの貼付と描画によって,自由に制作することであった.対象児の解決過程を分析した結果,知的障害児は,非知的障害9歳児に比べて作品の産出数が少なかった.また,表現タイプは,作品対象を一般的に見られるような色や形で表現する典型表現が多く,対象をユニークに表現する新奇表現が少なかった.知的障害児の見立て造形における作品特性は,作品の産出数が少なく,典型的な表現に止まる傾向が示唆された.それは,構成要素に関連する既有知識を検索することが困難であることと,個々の構成要素を心的に合成や変形することが制限されているといった構成過程の特徴が主たる要因と推測された.今後の計画は,まず予備調査の結果に基づき,本調査の手続きを決定する.そして,見立て造形活動を繰り返し行うことによって,プランニングの過程にどのような変化が示されるについて調査を実施する予定である.
|