2012 Fiscal Year Annual Research Report
幾何・圏論・組合せ論によるアフィンヘッケ環と量子群の表現論
Project/Area Number |
22740011
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
榎本 直也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50565710)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アフィンヘッケ環 / 量子群 / 結晶基底 / LLTA型理論 / 写像類群 / Johnson準同型 / 鏡映群 / quasi-invariant |
Research Abstract |
本年度は、ヘッケ環と量子群のLLTA型理論、曲面の写像類群に付随するJohnson準同型、および鏡映群に対するquasi-invariantについて研究を進めた。 LLTA型理論は、榎本-柏原正樹、柏原-Miemietzによって定式化されたアフィンヘッケ環に関するものがVaragnolo-Vasserotにより2010年に解決された。しかしこれらの定式化には、除外されているパラメータや、組み合わせ論的な構造がいまだに記述されていない部分があるなどの未完成な部分も残っている。本年度は、こうした課題に対して、次数化と圏論化の方法を用いて考察し、同時に様々な情報収集を行った。 曲面の写像類群に付随するJohnson準同型の像や余核の構造は、1990年代の森田茂之による先駆的研究以外では十分な理解が得られていない状況である。榎本-佐藤隆夫により、シンプレクティック群の表現論を利用して、2011年に新しい構造が導入した。またそれと同時期にいくつかのグループがそれぞれ異なった手法で結果を発表している。本年度は、榎本-佐藤で得た結果について、北海道大学理学部で行われた研究集会「代数幾何とその周辺」において講演をおこなった。また、榎本-佐藤で導入した方法を用いて、Johnson準同型の余核に現れる既約表現の系列を同定するとともに、河澄響矢-久野雄介による幾何学的アプローチとの比較研究を行った。これらについては現在論文執筆中である。 鏡映群のquasi-invariantは、不変式環と多項式環の間をより精密に記述するフィルトレーションを与えるもので、カロジェロ・モーザーの可積分系とも関連している。本年度は、非等パラメータを持つ場合の鏡映群のquasi-invariantについて数値計算などを行い、その記述について考察するとともに、特に可積分系の理論との関連について情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Varagnolo-Vasserotによる榎本-柏原、柏原-MiemietzによるLLTA型予想の解決以降、アフィンヘッケ環のLLTA型理論においては、Khovanov-Lauda-Rouquier型代数と呼ばれる次数付き代数と、圏論化と呼ばれる手法に基づいてアプローチすることが可能になった。これによりアフィンヘッケ環だけでなくそれらに関連した多くの代数に対してもLLTA型理論を構築できる可能性が広がってきたと言える。その反面で、これらだけでは十分に記述することのできていない詳細な構造もある。現在までの研究により、これらLLTA型理論に係る全般的な問題把握・整理および方向性が明確化されてきている。 曲面の写像類群に付随するJohnson準同型に関しては、1990年代の森田茂之による研究以降あまり理解が進んでいなかった。しかし、榎本-佐藤によるanti-森田障害と呼ぶべきシンプレクティック群の既約表現の同定は、森田以降初めて余核に存在するシンプレクティック群の既約表現の無限系列を同定した成果であると言える。さらに榎本-佐藤によって、自由群の自己同型群に付随するJohnson準同型と結びつけることにより導入された新しいクラスは、曲面の写像類群に付随するJohnson準同型の余核が、これまでの想定以上に大きく、かつ複雑な構造をもっていることを示唆するものであるという点で大きな成果であったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
アフィンヘッケ環および関連する代数に対するLLTA型理論については、2つの観点で研究を進めたいと考えている。ひとつは、テンソル積表現と呼ばれる量子群の表現を圏論化するような次数付代数の構造を理解することで、関連する代数への適用可能性をさらに押し広げることである。もうひとつは、アフィンヘッケ環のLLTA型理論のさらに詳細な構造を、組み合わせ論的記述と有限次元ヘッケ環との関連という観点から考察することである。 曲面の写像類群に付随するJohnson準同型の表現論的構造については、次の2つの観点で研究を進めたいと考えている。ひとつは、榎本-佐藤で得られた新しいクラスに属する既約表現の重複度を記述するような新しい理論の構築である。現在得ている結果はいずれも組み合わせ論的な計算を主として利用しており、それらを俯瞰できるような理論的結果なしには、これ以上の詳細な理解が難しい状況にある。特に対称性、リー代数の構造などに着目して新しい理論を模索したいと考えている。もうひとつは、現在国内外で提出されている新しい成果との比較研究である。本年度は河澄-久野による結果との比較を一部行ったが、これ以外にもConant-Kassabov-Vogtmannや森田-逆井-鈴木などのグループが新しい結果を得ている。これらの結果の表現論的解釈を探る中で、先に述べた新しい理論的な枠組みについての感触も得られると考えている。 鏡映群のquasi-invariantの研究については、quasi-invariantの表現論的な記述と超平面配置のようなルート系に付随する幾何学的対象、鏡映群に付随して得られるKazhdan-Lusztig多項式、可積分系やそれらの持つ対称性、さらにその対称性を統制するダブルアフィンヘッケ環の表現論との関連性を探る必要がある。今後それらの可能性を見据えながら研究を進めたいと考えている。
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