2012 Fiscal Year Annual Research Report
多様体の退化を通じたミラー対称性及び可積分系の研究
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22740031
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西納 武男 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50420394)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | トロピカル幾何学 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、ミラー対称性に関連した文脈の中でトロピカル多様体の研究を行った。トロピカル曲線とリーマン面は退化を通じて密接な関係があり、その関連において、Baker-NorineおよびGathmann-Kerberにより組み合わせ的およびトロピカル的なリーマン・ロッホ型の定理が成立することが知られているが、そのいくつかの方向への拡張可能性を示した。特にトロピカル曲線の応用上重要な、点付きリーマン面に対するリーマン・ロッホ型の定理の拡張、およびFock-Goncharovによるトーラス上のグラフから構成される可積分系のモジュライ空間の研究への応用を念頭に置いた、接続付きのグラフに対するリーマン・ロッホ型の定理への拡張を考え、論文にまとめつつある。また昨年度行ったK3曲面上の曲線の退化を用いた研究について、より精密な計算を行った。さらに、Gross-SiebertによるCalabi-Yau多様体の退化で重要な特異点付きアファイン多様体における研究手段として、以前にFormanによるCW複体上の組み合わせ的なモース理論の幾何学的な拡張を考えていたが、その研究を大きく改善することができたので、それを論文にまとめた。特に、CW多様体上の幾何学的な流れによる安定多様体及び不安定多様体が、今までは非常に長く複雑な議論をへて2次元の場合のみに示すことができていたが、新たな考え方を導入することにより、全ての次元において、より簡潔にそれらの部分多様体(一般には部分複体)を構成することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、多様体の退化を用いて、ミラー対称性の研究で現れる幾何的対象の諸性質や、多様体上の可積分 系の構造を調べることを目的とし、それによりもたらされた理解から、従来と異なる立場から新しい知見を求めることを目的としている。これまでの研究において、ミラー対称性において初めて現れる数学的対象、特にトロピカル曲線に関する考察から、K3曲面やその他の状況におけるの正則曲線の変形における倉西写像の計算可能性を示したり、より一般な多様体の退化における曲線の変形可能性についての組み合わせ的な計算法を与えるなどした。倉西写像は一般的に行って非常に計算が難しく、具体的に計算された例はわずかしかない。しかしミラー対称性の研究で考えられて来た多様体の退化、特にトーリック多様体への退化とログ幾何を組み合わせることにより、幅広い局面において倉西写像を具体的に計算することができるようになったことは新しい発見と言える。更に、ミラー対称性の考え方を応用して、Lagrange部分多様体を境界とする正則曲線を代数的に扱えるようになったことは大きな技術的進展であり、それにより従来構成が困難であった、ミラー対称性において重要なマスロフ指数が0である正則ディスクを容易かつ大量に構成することができるようになり、Gross-Siebertによる組み合わせ的なCalabi-Yau多様体の構成法の幾何学的な解釈を与えることができたのも重要な知見である。以上のようにミラー対称性の考え方を用いて従来の数学に新たな視点や解釈を与えることに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究課題における最終年度となるので、これまでに進めて来た研究を更に発展させることはもちろんであるが、研究内容を精査して総括し、申請時の時点よりも研究が深められた今の時点で改めて見直したときにどのような方向性の研究が望ましいか、またどのような課題が残されているかという点について熟慮し、将来における研究を進める上での指針を定めたい。これまでは倉西写像の計算をはじめとして主に複素曲線の場合を考えて来たが、より次元が高い場合にどの程度退化の考え方が有効であるかを見極めることは今後の重要な課題である。また近年は導来幾何からのアプローチが盛んになって来ており、その立場からは研究にどのような知見がもたらされるかについて考えたい。これらはいずれも長期的な展望が必要となる課題であるが、最終年度である今年度は、これまでの研究を継続して深めていきつつ、これらの将来において発展の見込める課題について研究するための基盤を作っていきたい。
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