2011 Fiscal Year Annual Research Report
大域的最適化手法を用いた新しい粉末未知構造解析アルゴリズムへのアプローチ
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22740077
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
富安 亮子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (30518824)
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Keywords | 位相問題 / 平均テータ級数 / 多項式計画問題 / 大域的最適化 / 半正定値計画法 |
Research Abstract |
未知構造解析においては、単結晶・粉末結晶どちらの場合も、位相問題と呼ばれる問題を解くことが必要となるが、必ずしも解の一意性が成立するとは限らない。現存するアルゴリズムでは単純なしらみつぶしを除き、全ての解を得ることができないので、全ての解を効率よく得られるアルゴリズムを物質構造科学の回折装置ユーザ向けに開発することが本研究の目的である。本年度は、sum of squaresを用いて全ての解を列挙する大域的最低化手法について、計算時間の高速化を行うための研究を実施した。結果としては、様々な改善にも関わらず、サイズの小さい構造でも数時間かかることがあり、正しい解に収束するとは限らなかった。この点はさらに調査が必要ではあるが、来年度は本研究計画の最終年度であるため、若干の手法変更を行う予定である。 また、本年度は、IUCr2011および日本結晶学会に参加し、粉末未知構造解析に必要な前処理である、粉末指数づけの全ての解の列挙を高速に行うことが出来るConographに関する口頭発表を行った。日本結晶学会では、ポスター発表も同時に行い、化学分野でポスター賞を頂いた。Conographのアルゴリズムは2次形式論の比較的高度な内容を利用しており、結晶学研究者にアルゴリズムを理解してもらうことは難しいが、評価して頂いたことは、当分野における数学の有用性が認められ、数学の応用の裾野を広げることが出来たと考えている。さらに、未知構造解析の前処理であるブラベー格子決定手法を新しく開発した。ブラベー格子の決定は誤差の影響を受けやすく、この誤差の影響の評価は、難しい問題として長年結晶学理論の分野で調べられていた。この問題に2次形式論を応用することで、既存手法より最大70倍以上高速となる方法を提案し、さらに理論上これを大きく改善するのは不可能であることを示した。結果を結晶学の学術論文誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、半正定値計画問題および多項式計画問題の既存手法を高速化する手法の調査を行ったが、全体的に結果の安定性の面から見て、ユーザに提供するプログラムとしては不満が残った。位相問題の解の列挙は、当該分野で需要が高く、十分な新奇性があると考えられるので、手法の修正を行うことで、本年度は、ユーザへの配布を視野においたプログラム開発を進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度なので、以下の二つの研究を終了させ、結果を学術論文にまとめたいと考えている。まず一つは、昨年度、消滅則から対称性を得る既存手法よりも、さらに多くの情報を使用する強力な手法として、強度(フーリエ級数の係数)から、結晶構造の対称性を記述する空間群を得る手法を開発した。このプログラムを様々なデータでテストした上で、改善を行い、その結果を学術論文にまとめる。二つめは、対称性決定の次のステージである原子位置決定に関する部分である。昨年度までの研究で、当初使用を考えていた半正定置計画法には、計算時間がかかるという問題、また、既存のソフトウェア内部に設定された計算条件から計算が途中で出来なくなってしまうという問題があることが分かっている。また、解が得られたとして、半正定置計画法で求められるのは解の近似値であり、収束性の問題も残っている。そこで、等式制約条件のみの問題を、観測誤差を考慮した条件下で解くことで、解の列挙を効率よく実施する方針を採用する。この方法は、原子の数が少ない場合には問題なく全ての解を取ってくることができる上、最適化部分が線形最小二乗法になるため局所最適解の問題も自然と解決される上、計算も高速である。また、既存手法と異なり厳密解を求めているので求められるパラメータの上限が明確にすることができる。この変更により、厳密な意味での不等式制約条件下での最適化は出来なくなるが、既存の未知構造解析アルゴリズムにおいても同様であるので、特に問題はないと考えられる。
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