Research Abstract |
熱半群のL^p-微分評価とL^q-Wasserstein距離の拡大率評価の同値性は,無限次元空間を含む広い枠組みで成立することが判明した.この一般化された枠組で初めて取り扱える無限次元空間上の熱半群の例について,条件を計算中である. Bonn大学のK.-Th.Sturm氏との共同研究は2月の研究訪問時に結実し,あるWasserstein距離を用いた鏡映カップリングの特徴づけに成功した.新しい定式化は特異空間でも意味を持ち,実際に条件がGromov-Hausdorff収束で保たれることを示した.Riemann多様体の場合に限っても,熱分布の差の全変動に関する比較定理など,微分幾何学的手法では未知の興味深い結果を得た.更に,比較対象となる空間での具体的な計算も与えた.また,この解析を通じて,熱分布の時間発展について曲率の下限の符号に拘らず単調非減少になる,新しいWasserstein距離を発見した.既知のWasserstein距離の拡大率評価は負曲率の場合には拡大評価となるため,新しい現象として,更なる解析が期待される. 太田慎一氏,N.Gigli氏らとの共同研究で得ていた,コンパクトAlexandrov空間上の熱分布に関する結果は,そのアイデアの斬新さ・簡明さ故に,当該分野に大きなインパクトを与えた.実際,このアイデアに基づき,Gigli氏およびAmbrosio,Savareの各氏により,非コンパクトAlexandrov空間を含む非常に広範な枠組みへと拡張された. これらの結果について,国内外の研究集会で発表し,関連する研究課題について,国内外の研究者と議論を重ねた.特に,9月にBonn大学で開催された国際研究集会"Stochastic analysis and its applications"では,鏡映カップリングに関する進行中の研究成果を発表し,多くの聴衆からの関心を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目標に掲げた鏡映カップリングの最適輸送理論による特徴づけには成功し,そこから,Riemann多様体上でも新しいと言える,期待以上の成果を得た,Alexandrov空間上の熱流については,他の研究者に先を越されたものの,それを踏まえた更なる進展の可能性が期待できる.熱半群の微分評価に関連する結果は,一般論が構築できた点において,順調に展開できていると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,sub-Riemann多様体上での解析への応用について,やや手薄になっていた.一方で,海外の研究集会での講演及び研究交流を通じて,F.Baudoin氏やP.Lee氏など,当該分野のエキスパートに知り合うことができた.彼らとの議論や共同研究を通じて,この方面の研究推進を強化する.また,ごく最近の研究動向として,空間の曲率下限の条件だけでなく,次元の上限をも加味した形での幾何解析・確率解析に関する,新しい結果が現れつつある.現存の研究の流れをそれらの流れに合流させることで,当該研究計画を大きく推進させることができると考えている.
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