2012 Fiscal Year Annual Research Report
材料物質内の結晶粒界を記述する数理モデルの解析と数学理論の新展開
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22740110
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山崎 教昭 神奈川大学, 工学部, 教授 (90333658)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 関数方程式 / 相転移現象 / 力学系 / 特異拡散 / 最適制御 |
Research Abstract |
本年度は,以下の2点を考察した。 1)非自励系結晶粒界モデルの考察 結晶角度速度のモビリティ項が時間と未知関数に依存している結晶粒界数理モデルを提唱し,そのモデルの解の存在と一意性を証明した。また,モビリティ項が時間に依存する場合,モビリティ項が未知関数にのみ依存している場合と同様に,定常解(定常問題の解)は少なくとも1つ存在し,解のω-極限集合は定常解集合の一部分となることが明らかになった。更に,非自励系結晶粒界モデルの漸近安定性をアトラクターの立場から考察し,時間依存モビリティ項が時間無限大のときに時間依存しない関数に収束する場合,空間次元が1ならば,非自励系結晶粒界モデルにより生成された多価力学系のアトラクターは,Allen-Cahn 方程式のアトラクターと定数零との直積集合を含むことを示した。また,空間次元が一般の場合,時間依存モビリティ項が時間無限大のときに定数関数に収束するならば,非自励系数理モデルのアトラクターは,Allen-Cahn 方程式のアトラクターと定数零の直積集合と一致することを示した。 2)特異拡散偏微分方程式系に対する最適制御問題の考察 液体固体相転移現象を記述する特異拡散を考慮した空間1次元数理モデルに対する最適制御問題を提唱し,非線形コスト関数を最小化する解(最適制御関数)の存在を証明した。また,特異拡散を滑らかな拡散で近似した近似最適制御問題を提唱し,その解の存在と解になるための必要条件を示した。更に,近似パラメータを0とするとき,近似最適制御問題の解の列はもとの最適制御問題の解に収束し,その解であるための必要条件は,近似最適制御問題の解になるための必要条件の極限として得られることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶角度速度のモビリティ項が時間と未知関数に依存していても,モビリティ項が未知関数にのみ依存している場合と同様な結果が成り立つことが明らかになった。これは,当初の計画では予想していなかった研究成果である。Kobayashi-Warren-Carter により提唱された結晶粒界モデルは,物質が完全に固体化した後の結晶粒界の運動を表す数理モデルである。応用上は,物質が液体から固体へ変化するという状況を考慮する必要がある。今年度,時間依存の結晶角度速度モビリティ項を考慮した数理モデルの解析が可能となったことで,物質の液体固体の状態変化を表す運動方程式と Kobayashi-Warren-Carter により提唱された結晶粒界モデルを組み合わせた数理モデルを理論解析するための有用な指針を得ることができた。 また,特異拡散を滑らかな拡散で近似する手法が,特異拡散非線形偏微分方程式系に対する最適制御問題を考察する上で非常に有効であることが明らかになった。これは,今後,結晶粒界数理モデルに対する最適制御問題を理論解析するうえでも,また,結晶粒界モデルの解や最適制御問題の解を,コンピュータを用いて数値実験的に求めるうえでも,非常に意義のある研究成果である。 以上のことから,総合的に考えると,交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度については,『おおむね順調に進展している。』と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
結晶角度速度のモビリティ項が時間と未知関数に依存していても,モビリティ項が未知関数にのみ依存している場合と同様な結果が成り立つことが明らかになった。このことにより,結晶粒界モデルを理論解析するうえでの,モビリティ項の取り扱いがより明確になった。そこで,今年度の研究結果を受けて,今後の研究の推進方策として,等温度下での,より一般的な数理モデル,つまり,物質の液体固体の状態変化を表す運動方程式と結晶粒界モデルを組み合わせた数理モデルの理論解析(解の存在や時間無限大での挙動等)を行うことを考えている。その理論解析については,今年度の研究成果が非常に重要な役割を果たすと考えている。 また,特異拡散を滑らかな拡散で近似した近似最適制御問題の解になるための必要条件が明らかになった。このことにより,近似最適制御問題の解をコンピュータを用いて数値実験的に求める為のアルゴリズムの導出が可能となると思われる。従って,アルゴリズムの導出を試みることも,今後の研究の推進方策の1つである。 更に,以上の2点と今年度の研究成果を組み合わせることにより,物質の液体固体の状態変化を表す運動方程式と結晶粒界モデルを組み合わせた,より一般的な数理モデルに対する最適制御問題の考察も可能となると考えている。これも今後の研究の推進方策の1つである。
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