2010 Fiscal Year Annual Research Report
量子スピン液体状態におけるスピン励起による熱輸送の研究
Project/Area Number |
22740224
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 穣 京都大学, 理学研究科, 助教 (10464207)
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Keywords | 磁性 / 低温物性 / 幾何学的フラストレーション |
Research Abstract |
理想的な二次元三角格子を持ち、各種の測定からスピン液体状態をもつ事が有力視されている有機物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率測定を極低温まで行った。また、比較のためにスピンがシングレット対を形成しているEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率も極低温まで行いスピン液体物質におけるスピンの熱伝導に対する寄与を明らかにした。その結果、スピン液体の候補物質においては極低温で大きな熱伝導率を示し、温度に比例する項が最低温まで残っていることが分かった。これはスピン励起が最低温までギャップレスに残っていることを意味する。このギャップレス励起の平均自由行程を見積もったところ、約1μm程度と格子間隔の1,000倍にも及ぶ長さになっていることが分かった。これはこのギャップレス励起がほとんど散乱されずに熱を運んでいることを意味する。このことはこのスピン液体が非常にコヒーレンスの良いスピン液体であることを意味していると考えられる。一方、磁場中ではスピン励起にギャップがあるような振る舞いが観測された。これは二種類の異なるスピン励起が存在することを意味する。これらの振る舞いは以前に行ったκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3とは全く異なり、本質的に異なるスピン液体状態が存在していることを明らかにした。さらに我々は熱ホール効果の測定に挑戦した。これは強磁場中において熱流に対して直角方向に温度差が現れる現象で電子系ではよく知られているがスピン系ではまったく測定例がない。しかし、スピノン励起に対しては熱ホール効果が存在することが最近理論的に示されその存在が注目を集めていた。我々は熱ホール効果を最低温度から12テスラの強磁場までの測定を試みたが、測定精度の範囲内においてその存在を確認することはできなかった。 これらの測定結果からスピン液体の未知の物性が明らかになり、さらなる理論的実験的考察が進展することが期待される。
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Research Products
(7 results)