2011 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道相互作用のある強相関電子系の非平衡ダイナミクス
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22740240
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
大西 弘明 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究員 (10354903)
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Keywords | 強相関電子系 / 軌道自由度 / スピン軌道相互作用 / イリジウム化合物 / 数値計算 |
Research Abstract |
スピン軌道相互作用誘起モット絶縁体Sr_2IrO_4を念頭に、スピン軌道相互作用を含むt_<2g>軌道ハバード模型の基底状態を厳密対角化によって調べた。前年度までの解析で、相互作用パラメータを変化させた場合の相図の概要を得ていたが、今年度はスピン軌道状態と多極子状態の詳細な解析を進め、スピン軌道相互作用の下での多体電子状態の特性について理解を深めることができた。強いスピン軌道相互作用により、基底状態はスピン-重項から有効全角運動量一重項へと変化し、異方的な電荷・スピン分布を持つ特異な量子状態が実現することを明らかにした。また、磁気双極子およびそれと同じ対称性を持つ磁気八極子の相関が優位となることを見出した。この場合は純粋な八極子秩序は実現しないが、電子数が異なる場合や幾何学的フラストレーションがある場合に議論を拡張して、高次の多極子秩序が発現する可能性を探究したい。また、光学伝導度の解析を行い、電荷励起スペクトルのピーク構造がクーロン相互作用やスピン軌道相互作用に応じてどう変化するのかを議論した。 多軌道強相関電子系が外部摂動に対してどう応答するのかを明らかにするために、時間変動する電場下の一次元e_g軌道縮退ハバード模型に時間依存密度行列くりこみ群を適用して実時間ダイナミクスを調べた。振動電場を印加すると、時間発展とともにダブロン数が増加していき、ホロン・ダブロンのキャリアが生成される。それに伴って、スピン-重項二量体が形成されるため、反強磁性スピン相関は抑制されることが分かった。一方、ダブロンのペアホッピングによって強軌道状態が壊されることを見出した。これは、多軌道系特有のペアホッピング機構がスピン軌道複合ダイナミクスにおいて重要な役割を果たしていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
強いスピン軌道相互作用の下での基底状態は有効全角運動量に基づいて記述されることが明らかになってきているが、電子が従来持つスピンや軌道の自由度という観点でイメージすることが難しく、その物理的描像の理解を推し進めることが重要な課題であると考えるに至った。そのため、基底状態のスピン軌道状態や多極子状態の解析に注力して、非平衡ダイナミクスに関する研究にやや遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン軌道相互作用を含むt_2g軌道ハバード模型に時間依存密度行列くりこみ群を適用して、非平衡条件下での実時間ダイナミクスを解析する。DMRGによる多軌道模型の解析を遂行する上での問題点は、軌道自由度を含む多自由度のため、メモリーなど計算機資源の制限から困難を伴うことである。これを克服するアプローチとして、スピン軌道相互作用が強い場合は有効全角運動量が良い量子状態を形成して実質的に軌道自由度が抑制されることに着目して、低温物性に寄与する軌道のみを抽出して自由度を減らした有効模型を解析することも検討している。
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Research Products
(10 results)