2010 Fiscal Year Annual Research Report
高圧合成による単結晶を用いた電子ドープ型マンガン酸化物の開拓
Project/Area Number |
22740244
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
酒井 英明 独立行政法人理化学研究所, 交差相関物質研究チーム, 基礎科学特別研究員 (20534598)
|
Keywords | 二重交換模型 / ヤーン・テラー効果 / ポーラロン / 軌道秩序 / 超巨大磁気抵抗効果 / 反強磁性金属 / 電子-格子相互作用 / SrMnO3 |
Research Abstract |
ペロブスカイト型マンガン酸化物のマンガン4価近傍の物質は、局在スピンが反強磁性的に結合する絶縁体中に少数電子をドープした二重交換系を形成している。本系は特に、超巨大磁気抵抗効果を示す正孔ドープ系とは対称的な系として、古くより理論的に大きな注目を集めてきた。しかし、その基底状態は未だ解明されておらず、キャリアの運動エネルギー利得によりキャント型反強磁性金属が安定になる、強磁性金属と反強磁性絶縁体の相分離状態になる、など諸説が提案されている。一方、実験的には、最も理想的な母物質である立方晶SrMnO_3の単結晶が不可能であったため、これまでほぼ未開拓であり、理論計算との比較も皆無であった。ところが最近、我々は高圧合成を用いることにより、SrMnO3の単結晶を世界で初めて合成した。そこで本年度の研究では、母物質に加え系統的に電子ドープした単結晶を作製・物性評価することにより、二重交換系の電子・格子相図を実験的に完全解明することを目指した。 SrMnO3はG型反強磁性モット絶縁体であるが、キャリアをわずか1%ドープすると、全温度領域で金属状態となる。比熱や熱電係数などの測定から、有効質量がバンド計算による値よりも約20倍も重いことがわかった。キャリアが少数であることを考慮すると、強い電子-格子相互作用によりポーラロン状態を形成していると推察される。さらにキャリアをドープし4%に達すると、基底状態は絶縁体へ転移する。同時にc軸が伸長することが観測され、3z2-r2軌道が秩序していることわかった。これはヤーン・テラー効果のエネルギー利得により、ポーラロン金属が自己組織化したと解釈できる。このように実際の軌道縮退した二重交換系では、非常に低キャリア濃度領域において、ポーラロンの遍歴と組織化の競合状態が形成されていることが明らかとなった。
|
Research Products
(8 results)