2012 Fiscal Year Annual Research Report
蛋白質環境下におけるアミノ酸のプロトン親和性変化の量子論的解析
Project/Area Number |
22740259
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
神谷 克政 筑波大学, 数理物質系, 助教 (60436243)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ナノ・バイオ / 蛋白質 / 計算科学 / アミノ酸 / プロトン親和性 / 第一原理計算 / 構造・機能・電子状態 / 密度汎関数理論 |
Research Abstract |
ナノメートルのスケールの生命現象では、プロトンの微視的な振る舞いが重要な役割を担う。蛋白質中のプロトンの挙動は、アミノ酸のプロトン親和性に支配され、それは周囲の蛋白質環境との相互作用で決まる。本研究では、アミノ酸のプロトン親和性に対する環境の効果を量子論的手法により原子スケールで解明する。水溶液環境から蛋白質環境への連続的なアプローチにより、蛋白質環境の特異性を明らかにし、環境の変化によるアミノ酸のプロトン親和性の制御機構を解明する。それにより、蛋白質の立体構造情報の量子論的解析法の確立と、その構造・機能相関を原子スケールで解明するためのフレームワークの提唱を目指す。 本年度は、機能と構造との相関が示唆されたタンパク質の重要な例であるナイロンオリゴマー分解酵素の反応機構に対する計算科学的解析を行った。本酵素は、6-ナイロン工業副産物(ナイロンオリゴマー)を分解する機能を有し、その反応機構を解明することは酵素を用いた環境浄化の観点からも重要な問題である。本年度は、当該酵素の反応機構の解明、特にプロトンの挙動に注目した解析を第一原理分子動力学法を用いて行った。その結果、本酵素の活性部位にある3つのアミノ酸残基(Ser112、Lys115、Ty215)による基質のアミド結合の分解反応をシミュレートする事に成功した。また、本酵素に特有のアミノ酸残基として知られているTyr170が、触媒3残基に対して協調的に働く事が示唆され、本酵素の生理的な構造と相関したプロトン移動機構も示唆された。 さらに本年度は、アミノ酸のプロトン親和性を量子論的計算から定量的に求めるための手法開発の研究も行った。これにより、水溶液中のアミノ酸のプロトン親和性が定量的に求めることが可能となった。加えて、種々なナノ・バイオ物質に対しても第一原理計算を行い、電子状態と構造の相関関係についての微視的な知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進展したため、研究成果として、雑誌論文への研究発表が6件、学会での招待講演が2件、学会発表が4件であった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、非天然合成化合物の生分解酵素であり環境浄化の点で重要なナイロン分解酵素に対し、分解反応を担うアミノ酸の周りの蛋白質環境に対する研究を継続する。さらに、水溶液中のアミノ酸のプロトン親和性についての研究結果と比較することで、蛋白質環境の特異性を明らかにし、環境の変化によるアミノ酸のプロトン親和性の制御機構を解明する。それにより、蛋白質の立体構造情報の量子論的解析法の確立と、その構造・機能相関を原子スケールで解明するためのフレームワークの提唱を目指す。
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