2011 Fiscal Year Annual Research Report
超高速コヒーレント分光で検証可能な励起エネルギー移動の包括的理論
Project/Area Number |
22740276
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
斉藤 圭亮 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (20514516)
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Keywords | 生物物理 / 化学物理 / 光合成 / 励起エネルギー移動 / 蛋白質 / コーヒーレンス / クロロフィル |
Research Abstract |
本研究課題の目的は光合成蛋白質中の色素間で起こる励起エネルギー移動を理論的に正しく記述することである.そのためには実際の蛋白質の内部でどのようにして効率的に励起移動が起こっているのかを調べる必要がある. 光合成蛋白質において励起移動は主にクロロフィル色素(Chl間で起こる.Chlは蛋白質内に多数埋め込まれているが,ひとつひとつのChl毎に性質が異なっている.個々のChlの性質が異なるために,ある方向への励起移動は起こりやすく,また別の方向への励起移動は起こりにくくなっている.このように,光合成生物は,蛋白質内のChlの性質を適切に変化させることによって励起移動の方向を規定し,その結果,エネルギーを効率的に捕集・伝達することを可能としている.では,どのようにしてChl毎にその性質を制御しているのだろうか?実際の光合成蛋白質に対して計算を行うことによって,この問題に対する答えを得た. 高等植物や藻類で水分解を行う光合成蛋白質には光化学系Iと系IIがある.系IIは水を分解する機能を持つ蛋白質であるが,水分解を触媒する活性部位の分子構造がずっと不明であった.ところが,本年度(平成23年度)に活性部位の詳細な分子構造を含む高解像度(1.9A)の構造が解明され,大いに注目を集めた.この蛋白質には多数のChlが含まれており,新しい構造ではその詳細な分子構造も明らかにされた.この新しい構造を利用して,特定のChlの性質がどのように決められているのかを調べた.その結果,系IIではChlの周囲の蛋白質環境のうち特定のアミノ酸残基がChlの性質を決定していることが明らかになった.一方,系Iでは系IIとは対照的に,蛋白質環境というよりもむしろChl自身の分子構造がその性質を決めていた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(平成23年度)に光合成蛋白質の一つである光化学系IIの新しい構造が発表された.この新しい構造を使って研究を進めた結果,本報告書に記載のように,重要な成果が続々と得られ,複数の論文として発表された.これら成果は,本研究がおおむね順調に進展していると判断するに足る,優れた内容である.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画において想定されていた内容に比べて,より科学的意義の大きな成果を得られることが期待されるため,計画に次の2点を追加する.(1)研究代表者が研究室を異動し高速な計算機が使える環境を得たことから,その計算機を用いて具体的な蛋白質中における色素の量子化学計算を行い'色素固有の性質を調べる.(2)光化学系II(藻類・植物の光合成において水分解を行う蛋白質)の詳細な構造が新たに発表されたことから,研究対象とする具体的な系として,光化学系IIを中心に据える.
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