2012 Fiscal Year Annual Research Report
超高速コヒーレント分光で検証可能な励起エネルギー移動の包括的理論
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22740276
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
斉藤 圭亮 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (20514516)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光合成 / クロロフィル / 励起エネルギー移動 / 電子移動 / 光化学系II / 紅色光合成細菌 / 色素 / 蛋白質 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は光合成蛋白質中の色素間で起こる励起エネルギー移動を理論的に正しく記述することである.そのためには実際の蛋白質をよく研究し,どのようなしくみによって意図通りの反応が起こるのかを調べる必要がある.蛋白質の結晶構造を基にした量子化学計算を行い,次の成果を得た. 1.光合成蛋白質において励起移動は主にクロロフィル色素(Chl)間で起こる.Chlは蛋白質内に多数埋め込まれているが,ひとつひとつのChl毎に性質が異なっている.その原因のひとつとしてChl自身のゆがみが考えられる.実際,蛋白質中のChl分子はゆがんでおり,その形はそれぞれに少しずつ異なっている.そのゆがみを定量的に解析し色素の電子状態の性質にどのような影響を与えているのかを調べた:植物の光合成で水分解を行っている光化学系II蛋白質ではChlの形は色素毎に大きく異なっていた.例えば,中心部分にある二量体Chlでは2つの色素が対称的に配置されているにも拘わらずそれぞれのゆがみの形は異なっていた.また,光を集めるためのアンテナ系にあるChlは,水分解を行う反応中心のChlとはゆがみの形が異なっていた.この違いはアンテナ系の役割(光捕集と励起移動)と反応中心の役割との違いに起因すると考えられる.さらに,系II反応中心のChlのゆがみは,共通の祖先を持つ紅色光合成細菌の反応中心のそれと類似していた.なお,電子移動に関係する酸化還元電位とゆがみはとはほとんど関係がない. 2.励起移動後に起こる電子移動・プロトン移動も重要な過程なので,蛋白質内の電子・プロトン移動に関する基礎研究も行った.蛋白質内プロトン移動では水素結合が重要な役割を演じていることを光受容蛋白質photoactive yellow proteinとロドプシンを例に示し,系IIではプロトン移動と電子移動が共役して起こっていることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度(平成23年度)に光合成蛋白質の一つである光化学系IIの新しい構造が発表された.この新しい構造を使って研究を進めた結果,本報告書に記載のように,重要な成果が続々と得られ,複数の論文として発表された.これら成果は,本研究がおおむね順調に進展していると判断するに足る,優れた内容である.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画において想定されていた内容に比べて,より科学的意義の大きな成果を得られることが期待されるため,昨年度と同様に当初計画に次の2点を追加する.(1)研究代表者が研究室を異動し高速な計算機が使える環境を得たことから,その計算機を用いて具体的な蛋白質中における色素の量子化学計算を行い,色素固有の性質を調べる.(2)光化学系II(藻類・植物の光合成において水分解を行う蛋白質)の詳細な構造が新たに発表されたことから,研究対象とする具体的な系として,光化学系IIを中心に据える. 次年度が最終年度に当たることから,積極的に成果発表を行う.
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